医師が選んだ医事紛争事例168  PDF

子宮全摘術後に原因不明の硬結が発見され

(40歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は約8年半前から子宮筋腫の治療を受けており、今回子宮全摘術のため入院した。翌日、腹式単純子宮全摘術が実施され、麻酔は硬膜外麻酔+全身麻酔で所要時間は2時間20分であった。術直後の経過は良好であったが、翌日(術後1日目)から左臀部に痛みを訴え、2日目に直径7㎝の発赤と中央に圧痛を伴う硬結が認められ、ボルタレン座薬R50㎎を投与された。8日目に硬膜外麻酔が終了したため、除痛にはペンタジンR15㎎筋注とボルタレン座薬R50㎎が投与され、ロキソニンバップRも併用された。その後も処置が継続され、その結果、疼痛・症状が軽快して手術から10日後に退院となった。退院から1週間後に受診した際、左臀部の硬結は母指頭大に縮小し褐色色素が沈着する状態に変化していたことが確認され、熱感と圧痛が認められた。術前の採血検査ではCKが高値を示した以外は特に異常はなかった。患者の希望でA医療機関を受診したところ「MRIでは血腫の疑いが強い。原因は通電や電気毛布による低温熱傷が考えられる」との診断であった。
 患者は、過誤の有無にかかわらず本件の経過を医療事故と解して賠償もしくは補償すべきとして、将来にわたっての医療費を請求すると主張した。
 医療機関側としては、まずは電気メスの電極版が事故原因と考えたが、部位が一致しないので否定された。最終的にはMRIで血腫を指摘されたことと、CKが高値を示したことから筋原性の挫滅がすでにあり早期から発現していた可能性が高い。したがって術中に麻酔が効いている時点で、それまで以上の何らかの物理的外力が加わり、局所的な臀筋の圧迫壊死様の変化を来した可能性が高いと推定された。ただし、仮に低温熱傷あるいは外圧によるものだとしても、今回の事故を予見することは困難であったと判断された。
 紛争発生から解決まで約2年1カ月間要した。
〈問題点〉
 今回は事故の原因(低温熱傷か外圧による硬結か)も不明であり、医療過誤があるとは断定できなかった。
〈結果〉
 医療機関側は、過誤が証明されない以上、医師賠償責任保険を適用できないので、やむを得ず保険適用のないままで若干の見舞金を支払い示談した。

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