鈍考急考 31 なぜ日本は衰退しているのか  PDF

 日本が衰退している。そう言っても驚きはすでになく、共通認識になりつつある。
 1人あたりGDP(国内総生産、購買力平価)は、韓国に2018年に抜かれ、台湾にも近く抜かれるという。
 30年にわたる経済停滞の結果、先進国から脱落する事態が現実的になりつつある。
 円安もあって自動車はまだ強いが、半導体や家電はとっくに脱落。ITは米国・中国に圧倒された。ロボット、医薬、バイオにも輝きはない。いちおう世界の最先端にいるのはアニメ、漫画ぐらいか。
 経済がすべてではないけれど、なぜこうなったのか。
 第1は企業の経営姿勢だろう。目先の利益のため、人件費などのコストを削って資金をため込む。技術革新より、ビジネスモデルや金融で稼ごうとする(たとえば投資企業と化したソフトバンク)。
 後押ししたのが自民党政府。派遣労働を広範に解禁した。法人税の軽減は、従業員の待遇改善や事業への投資より内部留保を促した。
 アベノミクス以来の円安で、輸出企業は性能より価格で競争できた。消費税率が上がり、輸出企業が受け取る「輸出戻し税」も増えた。日銀や年金の資金を投入して株価をつり上げたことも、上場企業の経営陣を甘やかした。
 第2に、科学技術・学問に投資していない。大学は競争を強いられ、研究者・教員は研究費の申請、実績報告などの書類作成に追われる。研究費の配分は実用性やわかりやすさ重視。博士号まで取っても有期雇用が多く、じっくり研究に取り組めない。
 第3に、人に投資していない。大学の学費が高く、先進国の中では進学率が低い。企業は人材育成に力を入れず、賃金を抑え、非正規労働者は使い捨てにしてきた。
 社会保障、福祉、教育への支出は切り詰められ、消費税を含む負担が増えて、国民はくたびれている。少子化対策でも政府は思い切った政策を打って来なかった。
 第4に学校教育と社会風土。型にはめる、覚えさせる、みんなと同じようにさせる。長所より欠点や失敗を問題にする。自己主張や異論に冷たく、人間関係の円滑ばかり求める。出る杭を打つ。
 そんな空気を吸わされていると、批判精神、独自性、創意工夫は育ちにくい。はみ出したら、つらい目に遭うから、若者もチャレンジより安定を指向してしまう。
 第5は格差と差別。階層の固定化が進んだ。世襲の権力者と取り巻きは甘い汁を吸いながら威張り、不正やウソを重ねても罪に問われない。
 多様性こそ活力の源泉なのに、アジア・アフリカ・中南米の外国人は見下し、安くこき使う。近隣の国を侮蔑して自己満足にひたる。もうからない文化、芸術、自然、地方は軽んじる。そんな国が魅力的に映るだろうか。
 よその国がそれほど良いわけでもないけれど、希望が見えない。「日本をぶっこわす」と宣言して、がんじがらめの構造、粘りついた空気を解体したい気分にもなる。
 ところが既得権打破、改革を叫ぶ政治勢力がいちばん強権と利権を追っていたりして、また、だまされる。

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