長年協会で、医療安全対策部会の実務に携わって本会会員への貢献を継続し、07年5月後進への継承を果して退任した辻市太郎先生がこの3月25日、享年89歳で他界された。
あまりお目に掛からなくなってから早14年の歳月が流れている。思えば先生とは筆者も、93年6月からの山田亮三理事長の新執行部の立ち上げとともに医事紛争処理部(現・医療安全対策部会)担当理事として協会実務に参加したが、折しも筆者満44歳、先生は満59歳と人生の大先輩でもあった。爾来、理事3期、副理事長1期、監事3期、計7期14年の長きに渡りお勤めいただき、ともに前任者から引き継いだ会務運営の充実・適正化に協働・邁進したことが懐かしく思い出される。
先生はどちらかといえば気さくな方で、筆者との会話では自分のことを「僕はね…!」とおっしゃり、(a)「宇田君、君はこの件、実際はどう考えるンヤ?」など大変率直であった。筆者には(b)「医療過誤の有無の判断に、法律はどうからむのや?」(c)「医賠責保険で保険金(適正額)の支払いが値切られんためにはどうしたらええ?」など議論を吹っ掛けられ、ご自分もよく勉強されたが、(d)「君はまだ若いから、紛争処理に要る法律学をもっと勉強して、産婦人科医師の僕にも解るように教えてくれ!」とのことであった。
筆者は丁度その頃、日本臨床整形外科医会会員用に冊子『医療事故・医事紛争を予防するために』の執筆・完成を急いでおり、さっそく最新草稿をお渡ししたが、「要は、医療行為・判断に過失があったか否かですな!? 悪しき結果を予測・予見して、それができれば結果回避行為ができて、それをしたか否かですな!?」とご理解が早くて安心した。「その認定基準には、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準を満足させられるか否で、要は教科書、ガイドラインで必要な知識を十分知って、教育実習・技能研修などで、安全かつ有効に実施できる技術能力を脳と体に覚えさせたかどうかですな! よく分かった」とのことであった。
また、値切られない適正な額の支払いには、損害の公平な分担の観点から、事務局員Nくんが強く主張した「寄与率方式」が行われるようになった。
その後、お優しくも全国の保険医協会に医療事故・医事紛争の予防をテーマの講演等には我々に負担をかけぬよう自分からよく行っていただき有難かった。
「憾みや文句を言う患者側も辛かろうが、責められる医療従事者も苦しいものだ。慰め・励ましつつ、早く解決できるよう努力しよう!」となり、先生のお教えに違わぬよう今なお会員のため、よりよいシステムの構築・運営と自負して、本会の紛争解決支援活動を継承しております。どうか、あの頃ご一緒した同じく産婦人科の横田耕三先生とともにこちらを見守りつつ、安らかにご永眠下さい。ありがとうございました。
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