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身近にいるのに全然知らないカラスの生態

 突然ですが、私は動物が全般的に好きです。しかし、カラスが好きかと問われると少し首を傾げます。カラスに怒られそうですが、朝な夕なとカラスを見るものの目につくだけで気に留めたことがありません。しかし、松原始氏の『カラスの教科書』を読んで、カラスに興味を持つようになりました。
 松原氏は東京大学総合研究博物館・特任准教授で、専門は動物行動学。日夜、カラスを追って研究されています。この本は、「どうやらカラスとはわざわざ見るほどのものでなく、まして研究者などいるわけがないと思われている節がある。あるいはカラスといえば被害防除の研究と早合点する方もいる。冗談じゃない、あれほど面白くてカワイイ鳥はいないのだ」と声も高らかに宣言するところから始まります。
 氏のカラス好きの熱量は半端なく、ハシブトガラス・ハシボソガラス・コクマルガラス・ワタリガラス・オサハシブトガラス・ミヤマガラスと、分類やそれぞれの特徴、生態など細かく解説があります。エッセイのような文調で書かれているので親しみやすく、知らないことだらけなので興味深く読みました。
 ですが、一番面白いのは、やはりフィールドワークにおけるカラスとの交流です。著者は京都大学出身なので、フィールドワークとして出てくるのは多くが京都の街です。下鴨神社に営巣するハシブトガラスと高野川の御蔭橋あたりに営巣するハシボソガラスの仁義なき戦いや、一夫一婦制であるカラスのαとβと名付けたペアの離婚話、行動追跡の研究で3日間京大の屋上で張り込んだ時の著者の朝食がコンビニの90円のメロンパン、かたや観察しているカラスは百万遍辺りの居酒屋か小料理屋のごみ箱から肉付きフランク、肉じゃが、生湯葉などなど。「カラスを見ていると、この世の不条理を感じる瞬間がある」そうです。
 カラスはごみを漁る迷惑者と考える人も多いと思いますが、この本ではカラスは街に適応したわけでも山を追われて仕方なくでもなく、食べ物があるからごく普通にごみを漁る。森林での生活をそのまま都市に持ちこんだものに過ぎず、スカベンジャーとしてごく当たり前と解説されています。一方で、著者はカラス愛に溢れつつも研究者としての冷静な視点での語りもあり、その距離感がまた心地良いです。この1冊、いかがですか?
(事務局・二橋 芙紗子)

『カラスの教科書』
松原 始 著
有限会社雷鳥社 2013年1月20日発行
1,760円(税込)

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