旧優生保護法下で強制的に不妊手術を余儀なくされた被害者らが、国に対し賠償を求めた裁判で、第一審の請求棄却の判決を覆し、控訴審では国に対し賠償を命じる逆転の判決が大阪高裁で2月22日に言い渡された。これを受け、協会は判決を歓迎する談話を3月7日に発表。国に上告を断念するよう求めたが、談話発表と同日に国は判決を不服として、最高裁に上告受理の申し立てをした。また、東京高裁においても2例目となる国への賠償を命じる判決が3月11日に言い渡された。
旧優生保護法は1948年から1996年まで日本に存在した。同法第1条は「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする」と謳い、その見地からの不妊手術や人工妊娠中絶を合法化した。手続き上、本人の同意を必要としない強制的な不妊手術を受けさせられた人は統計に表れているだけでも約1万6500人とされる。優生保護法は「不良な子孫」との表現の下、「遺伝性疾患」や「らい病(ハンセン病)」、「遺伝性のもの以外の精神病または精神薄弱」の人たちが強制不妊手術の対象となった。旧優生保護法によって「不幸な子どもの生まれない施策(運動)」すら展開され、引き起こされた人権侵害は、国家が疾患や障害のあることを理由に人々から子どもを産み育てることを奪い、なおかつ「生きているに値しない命」であると認定するというものに他ならなかった。
医師・医学者がこの国家政策に深く関与していた事実は重大である。
2020年6月には一般社団法人日本医学会連合も「旧優生保護法の検証のための検討会」の報告書をまとめ、「旧優生保護法下で行われた強制不妊手術は、歴史的な経緯があるとはいえ、現在の医療倫理的な観点からすると、人間の尊厳、身体・リプロダクションの自由を侵害するものであった」とし、「かつて医学・医療関係者が、旧優生保護法の制定に関与し、その運用に携わり、また、医療倫理や人権思想が浸透してきた後も、この法律の問題性を放置してきたことは誠に遺憾」であり「深い反省と、被害者およびその関係者に対し心からのお詫びの表明が求められる」と述べている。私たち医療者は、これを深く胸に刻まなければならない。
全国で九つの地裁において、被害者による国家賠償請求訴訟が取り組まれており、そのうちの1件について去る2月22日、大阪高裁が国に対して賠償を命じる判決を言い渡した。これまでの地裁判決はことごとく「20年の除斥期間」を理由に被害者の請求を退けてきた。しかし、今回の判決は旧優生保護法による人権侵害は強度であり、国が障がい者等に対する差別・偏見を正当化・固定化・助長をしてきたこと、被害者が訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったこと等から、除斥期間の適用自体が「著しく正義・公平の理念に反する」と判断したのである。これは国家による重大な人権侵害に対しては除斥期間の適用を制限するとの判断であり、極めて画期的な判断である。
被害者はみな高齢となっている。国は今回の判決を真摯に受け止め、上告せず、全面的な解決と謝罪、十分な補償に向けて動き出すよう、強く求めるものである。また、被害の全容はまだ十分には解明されていない。個人情報保護と人権擁護に最大限の配慮を払いつつ、一人でも多くの被害者に補償が行き渡るように、国と各自治体が真摯に力を尽くして調査と認定を進めることを求めるものである。
京都府保険医協会
理事長 鈴木 卓