協会は2月25日、京都府知事宛の要請書「高齢・高リスク者の入所先への放置を解消し必要な医療を保障すること」を提出した。同日時点で新型コロナウイルス感染症により療養中の人は府内全域で1万9256人、うち自宅療養者1万8391人、入院者は671人で府の発表する「確保病床使用率」は74・2%だった。
協会には日々、会員・関係団体から実情が寄せられるが、第6波では「高齢者施設に入所している人が陽性になっても入院できない」との訴えがある。府発表の統計上、高齢者施設入所者は自宅療養者にカウントされ、そのうち施設入所者が何人いるかは正確にはわからない。またこれは死亡者数も同様である。
「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 第6・2版」(22年)は「高齢は独立した重症化リスク因子」としており、高齢者は原則入院の扱いにするのが医療的には当然の判断であろう。そのため京都市もホームページに「原則入院により療養」と判断すべき基準のトップに「65歳以上」と記している。無論、病床逼迫は事実である。だが万一にも高齢者施設に入所していると「特に入院しにくい」ということがあってよいはずがない。しかし現場からは「救急車を呼んだが入院できずに送り返された」事例や入院できないまま施設で亡くなられた事例が報告されている。さらに入院を求めたところコントロールセンターや救急隊から「延命措置」の有無を確認されたとの訴えまである。
入院待機ステーションの現状
こうした事態の中、注目すべきは府発表の「確保病床数」(表)である。府が公表する確保病床数は904床だが、うち110床は「入院待機ステーション」である。同ステーションはもともと「病床が逼迫し入院調整に時間を要する状況が生じた場合に備えて、一時的に酸素投与・投薬・点滴などを行う」施設として設置されたが、現在は臨時的医療施設とされており、府の発表する「確保病床使用率」の分母に含まれている。であれば医療スタッフを確保したうえで「110床」をフル稼働させ、受入病院との役割分担等の工夫をすれば今以上の受け入れは論理的には可能である。そうなると高齢者施設への「留め置き」状況の改善に大きく資するはずである。だが同センターの稼働状況は極めて低調と聞く。
協会「必要な人に必要な医療を」
以上のような事態を踏まえて協会が要請したのは次の5点である(本紙第3117号既報)。①高齢者施設において、在宅酸素濃縮器等、必要な医療資機材を用意し、重症化防止のため抗ウイルス薬や中和抗体薬が時機を失せず使用できる条件を整えること。施設の配置医師だけでなく、訪問診療実施医療機関の協力も得てこれらの措置がスムーズに取れるようにすること②高齢者施設において入所者が感染した場合に、外来や入院の相談ができる専用の窓口を入院医療コントロールセンターに設置すること③島津アリーナに設置した入院待機ステーションの稼働状況を公表し、フル稼働する、収容可能数を増やす、医療スタッフを確保する等、体制を強化すること④宿泊療養施設の医療機能を強化し、ハイリスク患者を受け入れ可能とすること⑤高齢者、ハイリスク者などの3回目ワクチン接種を加速すること。
患者の施設「留め置き」
逼迫は理由にならず
この問題は京都府議会でも取り上げられ、3月9日の府民環境・厚生常任委員会において京都府当局は厳しい追及を受けた。府当局は施設入所中の高齢者に対する何かしらの意図を持ったトリアージはしていないと説明する一方、「非常に逼迫して、1床のベッドを空けるのに精いっぱい」のため「必要な情報」として「ご家族の希望を聞かないと調整できないところも事実」との趣旨で答弁している。また110床の臨時的医療施設について議員からは「(3月2日時点では)1床しか使われていなかった」事実が指摘された。これに対し当局は「これまでにトータルで164人の受入れ」(3月7日現在)実績と説明し、今後の活用を検討する旨答弁した※。
新型コロナウイルス感染症に対する治療は「回復」を目的としたものであり、「延命」のためのものではそもそもない。これは高齢者であってもなくても同じである。すべての感染患者は回復に向けた医療を提供される権利、つまり「生きる権利」がある。京都府は110床と公表した臨時的医療施設をフル稼働させるべくいっそう努力が求められている。それなしに入院が必要な患者が入院できないまま高齢者施設に「留め置き」されている現実はどんな角度から見ても「仕方ない」とは言えない。
※光永敦彦・島田けい子京都府議会議員の質問への答弁。文責・協会事務局。
京都府の確保病床状況(3月18日現在)
病床数 794床
重症病床 171床
高度重症病床 (51床)
中等症病床 485床
軽症・無症状病床 138床
入院待機ステーション 110床
合計 904床