シリーズ環境問題を考える 152  PDF

隠蔽されてきた不都合な真実
フクシマ事故とトリチウム汚染水

 この3月で、未曾有の東日本大震災と津波の中で発生した福島原発事故から11年目を迎える。地震と津波により全電源喪失と原子炉の損傷の結果、原子力発電所のメルトダウンと小爆発を経て、チェルノブイリ事故を上回る膨大な放射能を、福島県をはじめ、全地球にまき散らす大惨事となった。
 熔け落ちた、原子炉1・2・3号機中にあった、広島原爆換算約8000発分のセシウム137は、大気中に168発分が放出され、海に放出されたものを合わせると広島原爆約1000発分であろうと推定されている。
 放射能汚染の結果、今も多くの福島県民が、農地や住処、職場、学校、海を奪われ、生活基盤の根底から奪いとられ、また放出された大量の放射線の被曝による子どもたちの甲状腺がんのみならず、種々の健康被害と今後の不安にさいなまれる日々を強いられるものになっている。
 事故後10年、生活保障が打ち切られる中、今も「原子力非常事態宣言」は解除できず、年間20ミリシーベルトという、本来なら放射線業務に対してのみ国が許し、地域内では、水も食べ物もとることができない環境での生活を、赤ん坊や子どもをはじめ、福島県民は強いられ続けている。メルトダウンした原子炉の廃炉計画も、事故後10年を経過したが、強すぎる放射線で、ロボットを使っても、溶け落ちた炉心の状態すら掴めておらず、100年以上かかっても解決できる目処すら立っておらず、結局は、石棺処理しか方策がないのではとさえ語られている。
 事故後、溶け落ちた炉心に向け、ひたすら、冷却のため水を注入してきたが、その結果、毎日、平均140トンものトリチウム(3H)などを含む、放射能汚染水が発生してきた。汚染水にはSr―90や半減期1570万年のI―129も含まれるが、浄化装置で放射性物質を減らした処理水は、これまで、敷地内のタンクに貯め込まれ、その総量は21年2月時点で、約124万トン、敷地内の保管用タンクは1000基を超えるに至っている。処理水のトリチウム平均の濃度は約73万Bq/?、トリチウム総量は約1000兆Bqを超える。東電が予定する137万トン分のタンクは22年秋には満杯になってしまう。そのため国と東電は、これまで、原発の通常運転時放出していた年間22兆ベクレル以内に薄め、海に放出しようとしている。放出は、今後30年以上にわたり続くことになる。原子力発電では、稼働するだけで、原子炉内の二重水素の中性子捕獲により、トリチウム水素が生成され、膨大なトリチウムが生み出される。
 トリチウムの捕獲技術の遅れの結果、これまでトリチウムが生成される量に合わせ、基準をご都合主義的に決め、海洋に放出されてきた。しかし、カナダやドイツ、我が国の玄海や、泊原発周辺での住民の健康被害の続出や、疫学調査の結果は、トリチウム汚染が発がんや、染色体異常を増加をもたらす危険性を示唆するものである。
 トリチウムは環境中でまた、生活を通し濃縮され、また、蛋白、糖、脂肪など有機物に結合し、化学構造式との中に水素として組み込まれ、有機結合型トリチウムは排泄が遅く、時には結合した部位で、年単位でβ線を出し続ける。その結果、深刻な分子切断や、遺伝子異常が生じるとされる。海洋放出はストップすべきである。
(環境対策委員・島津恒敏)

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