小学生の頃、京都大学の広中教授が「特異点の解消」という代数幾何学のテーマでフィールズ賞を受賞したこともあり、自分も数学者を目指そうと思ったことがありました。
40歳を過ぎた頃から数学への思いが頭を持ち上げ、20世紀以降に発展した抽象的な現代数学の勉強を始めました。集合論 位相空間論 抽象代数学(群論 環論 体論) 現代幾何学(微分幾何学 代数幾何学) 解析学(測度論 ヒルベルト空間論)など分野が広範囲におよび、独学のため、遅々として歩みの進まない日々が続きました。数学の内容の理解は覚束なかったのですが、現代数学を発展させた時代背景を知ることができたのは収穫でした。抽象的な現代数学の担い手となったのはナチスに迫害されたユダヤ人数学者たちでした。
位相空間論の創始者であるハウスドルフは、強制収容所に送還される直前に服毒自殺を遂げました。数論で功績を残したベイユは、処刑寸前にアメリカに亡命。
代数幾何学で貢献したグロタンディークは、強制収容所を生き延びた人でした。
定住地を持たず異教徒として迫害を受けてきたユダヤ人は「自分は何者か。どこからきたのか」という厳しい問いを発し続ける中で、個別の問題の解法に拘泥することなく、理論を抽象化する方向に力を注ぎこんだのだと思います。
現代の数学史は、困難な時代が思想や学問を鍛えることを教えています。
20世紀に開花した現代数学は多くの未解決問題を解決し、新たな地平を目指そうとしています。
私の遅い歩みも、20年かけてようやく圏論(カテゴリーセオリー)までたどりつきました。対象と射からなる圏論は集合論をさらに抽象化したものです。「対象とは何か」を問うことすらせず、対象間の関係性に着目する新しい数学言語です。コンピューター科学をはじめ、さまざまな分野で圏論が活躍しています。生命科学も将来は圏論の言葉で書き換えられるのではと思っています。
医師を引退しても数学は続けていこうと思っています。
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