診察室 よもやま話2 第4回 飯田 泰啓(相楽)  PDF

介護施設とコロナ

 新型コロナウイルス感染症が流行してから、産業医をしている介護施設からしばしば相談を受けるようになった。
 「うちのヘルパーなのですが、37・9℃の発熱があるのです」
 「コロナのことを心配されているのですね」
 「そうなのです。その職員なのですが、今日、利用者さん宅を訪問しているのです」
 「出勤時に、全職員の検温をしていましたよね」
 「もちろんです。今朝はなかったのですが、夕方になって熱があると言ってきたのです」
 「で、PCR検査をしてほしいのですか」
 「そうなのです。もしコロナだったら、利用者さんと濃厚接触している可能性があるので大変なことなのです」
 結局、この職員のPCR検査は陰性で、翌日には解熱して特段の自覚症状もなく、事なきを得た。
 介護施設では、職員が直接に利用者さんと接しなければならない。それだけに、介護施設では新型コロナ対策には神経を尖らせている。利用者にコロナ感染者がないかを注意するのはもちろんのことであるが、施設の職員や家族にコロナ感染者が発生した場合の対策も欠かせない。そのため衛生委員会で議論して職員や同居家族がコロナ感染になった場合の対応マニュアルを作成した。
 先日も、職員の家族がコロナ感染者となって、職員が濃厚接触者であると保健所から認定された。早速、作成したマニュアルにしたがって職員には自宅待機してもらった。
 「職員が新型コロナ患者になった場合には病休の扱いになるのです」
 「入院するにしろ自宅療養するにしろ病気療養なのだから病休ですね」
 「でも、職員が濃厚接触者になってPCR検査陰性であっても自宅待機を要請されるのです。そのときは、病休にならないのです」
 「確かに。健康観察のための自宅待機だから病休とはならない」
 「そうなのです。その場合でも、施設から自宅待機中の給与を払わなければならないのです」
 「えっ。そうなのですか」
 「ただでさえ、人員が足りなくなってやりくりに困っているのに、給与を支払って休んでもらわなければならないのです」
 濃厚接触者の扱いについて施設では困っているようである。作成したマニュアルでは職員が濃厚接触者となった場合には最終接触日より14日間の健康観察をすることとしていて、職場に出てこられないことにしている。各地の保健所の取扱い規則を参考にして作成したマニュアルである。新型コロナ患者の退院基準では発症から10日経過し、かつ症状軽快から72時間経過した場合となっている。場合によっては、感染者の方が濃厚接触者よりも早期に職場復帰できることとなる。
 「コロナ感染者の方が、濃厚接触者よりも待機期間が短いのはおかしいですよね」
 「うーん、そうですね」
 「職員が感染者になった方が、病休にできるし職場復帰までの期間が短いので助かります」
 「そうでもないですよ。保健所や主治医の対応によっても違いますが、退院後1週間程度は自宅待機が必要のようです。それに職場復帰後も体調不良がないかの観察も必要ですから。それに、新型コロナに感染すると重症になることもあるのですよ」
 「そうですよね」
 「職員がコロナ感染者になったら、施設の利用者さんにコロナ感染者がいないか調べなければならないし、施設がクラスターになるかも分からないのですよ」
 「恐ろしいことを言わないで下さい」
 なかなか認められなかったプール方式でのPCR検査が認められ、施設利用者全員の検査を行政検査ですることが認められるようになった。無症状者でも行政検査としてPCR検査が実施できるのはありがたいことだが、対象となる施設等の種別、対象者、対象地域などは都道府県が定めることになる。
 産業医として現場から相談を受けた場合に気軽に案内できる類のものではなく、そのような状況とならないことを祈るばかりである。

ページの先頭へ