診察室 よもやま話2 第3回 飯田 泰啓(相楽)  PDF

デイサービス

 新型コロナ感染症は、強行されたオリンピックやパラリンピックを契機として7月上旬から感染者数が急激に増加した。第5波がピークとなった8月20日には1日の感染者数は2万5992人と過去最多を記録した(NHK特設サイトより)。9月末から10月にかけて新規の感染者数が激減しているが、11月末までに国内の累計感染者数は172万人を超え、死亡者数は1万8千人に達した(東洋経済オンラインより)。東日本大震災を上回る死亡者数である。
 一時は、新型コロナの影響で診療所に通院されている高齢者の生活も、すっかり変わってしまっていた。
 「デイサービスは楽しいですか」
 「デイサービスが中止になっているのです」
 「それは、寂しいですね」
 「たくさんの話し相手ができたのに。話をする相手もなくなりました」
 「そうですか。一人暮らしなので困りますね」
 「昔は草引きをしながら生垣越しにお隣さんと話もできました。でも、コロナからはお互いに外に出ないようになっています」
 新型コロナの影響でデイサービスが利用できなくなり閉じこもりがちの生活になっているようであった。
 ほとんどの施設はサービスを続けていたのだが、その利用者でも新型コロナを怖がってデイサービスを休んでいる方が多かった。
 「デイサービスに行きたいのですが。コロナのことがあるので、息子が行ってはいけないと言うのです」
 「そうですね」
 「行ってもよいと息子に言ってもらえませんか」
 「でも、歳を取ってコロナに罹ると命がないですよ」
 「もう歳だから、いつ死んでもよいのです」
 「でもね、コロナで死んでしまったら、まともな葬式もしてもらえませんよ。家族も大変な目に会うのですから」
 「老いては子に従えですね」
 特別養護老人ホームでは、緊急でやむをえない場合を除き家族でも面会が制限されている。
 「母が特養に入所しているのですが、面会ができないのです」
 「施設だけではないですよ。病院でもなかなか面会ができなくなっています」
 「これまでだったら、母に会って話ができたのにそれができません。洗濯物を持って行って持って帰るだけなのです」
 「テレビ電話で会話できるのではないのですか」
 「施設で用意してもらえるのですが、ほとんど画面で顔を見るだけです」
 「勝手が違って、なかなか会話になりませんね」
 「せっかく施設まで行っているのに淋しいです」
 当地区でも介護施設の職員や家族にコロナ患者が出た。利用者には広がらなかったために大事には至らなかった。施設の利用者に感染が拡大すれば、そもそも介護施設の少ない当地区なので、介護崩壊に至るところであった。そのために介護施設ではピリピリとした対応になっている。
 「どうですか、コロナが流行ってからの介護の仕事は大変でしょう」
 「そうなのです。マスクはもちろんのこと、フェイスガードや使い捨てエプロンを着用して仕事をしています。なるべく利用者さんに近寄らないようにしているのです」
 「そうですよね。施設でコロナが出たら大変なことになりますね」
 「できるだけ、同じ時間帯に集まる人数を縮小して、お互いが話をする機会を減らすようにしています」
 「これまでのように、歌を歌ったり、体操をするのが難しいですね」
 「それに利用者さんはご高齢で耳の遠い方が多く、耳元まで顔を近づけて、大声で話さなくてはなりません。本当に気を遣います」
 食事中は利用者が向かい合わないようにしていること、入浴やレクリエーションなどでは利用者同士が距離を保てるよう配慮していることを教えていただいた。そして、これまで以上に自分や家族の健康に留意しているという。
 介護現場にも新型コロナの影響はすっかり浸透しているようである。

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