主張 国の反省が見られない 新たな新型コロナ対策  PDF

 政府は「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」(11月12日)を示した。医療提供体制の強化、ワクチン接種の促進、治療薬の確保、日常生活の回復、の4本柱からなる。これを受け厚生労働省は11月19日に、病床の確保状況・使用率等の「見える化」について(事務連絡)を都道府県に発出。病床確保ができず自宅や療養施設で亡くなった例が相次いだが、政府・厚労省の責任に対する自覚と反省が見られないことが特徴だ。
 第5波では東京と比べて大阪で高齢者の重症治療割合が大幅に低下し、治療の差し控えが起きたのではないかと懸念されている。社会的弱者が医療から排除される現実が露呈したのではないか。障害のある人も、透析やがん、難病、緩和ケアなどの患者さんも慄然とする状況があったということを見逃すべきでない。厚労省はこうした事態にこそ敏感であるべきで、知らぬ顔をして済ませる場合ではない。
 事務連絡には、G―MISに正確かつ迅速に入力しない場合には補助金を出さないと脅かすような文面もある。これは病床不足の責任を病院と地方自治体に負わせる厚労省の姿勢を露わにしたものである。HER―SYSもそうだが、多忙を極めた現場に優しくない入力システムを作り、ファクスによる送信も要請するなど不合理さが目立った。フィードバックによって改善する姿勢も乏しかった。ワクチン副反応報告についても同様である。COCOAの失敗については国民にわかるような説明がされてこなかった。政府・厚労省は国民、医療関係者、地方自治体と同じ目線で協働すべきである。
 京大の西浦教授の報告を参照すると、HER―SYSデータなどを使ったCOVID-19感染者数の推計がされていたことがわかる。当然入院が必要になる患者数は推測できるわけで、こうしたデータを用いて必要病床数を定め、それに基づいて不足する病床数を説明し、確保の要請を行うべきであった。しかし、厚労省および政府のリスクコミュニケーションは極めて不十分で消極的だった。説明責任を専門家、医療機関、地方自治体等へ丸投げしてきたことは、ワクチン接種においても記憶に新しい。風評被害の原因はそこにあるのにもかかわらず、手のひらを返したように当事者をスケープゴートにするのは感染症法の趣旨に悖るものと言わざるを得ない。
 コロナ禍において国民のいのちを守るためには、岸田内閣の「新しい資本主義」という目くらましに幻惑されず、憲法の社会保障原則を進化させながら運動を強めなければならない。

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