鈍考急考 24 原 昌平 (ジャーナリスト) なぜ維新が躍進したのか  PDF

 勝ったのは維新だった。
 衆院選は、解散当初の様相と少し違う結果となった。首相交代とコロナ沈静化のおかげで、自民の議席減は小幅にとどまった。公明と国民は堅調、立憲と共産はやや後退。維新は4倍近くに増えた。
 議席数は次の通り(カッコ内は公示前からの増減)。
 自民261(15減)、公明32(3増)、維新41(30増)国民11(3増)、立憲96(13減)、共産10(2減)、れいわ3(2増)、社民1(同数)、無所属10(2減)。
 議席数は、中小政党に不利な小選挙区、ブロック別比例という制度の影響も大きい。
 各党の実勢を示す比例合計の得票率を見よう(カッコ内は2019年参院比例)。
 自民34・6%(35・4%)
 公明12・3%(13・1%)
 維新14・0%(9・8%)
 国民4・5%(7・0%)
 立憲19・9%(15・8%)
 共産7・2%(9・0%)
 れいわ3・8%(4・6%)
 社民1・7%(2・1%)
 自民の得票率は3割台。立憲はそう悪くない。左派票がれいわに分散した面もある。
 立憲は昨年9月に旧国民民主や無所属フォーラムなどの議員が合流して再結成したが、党名は変えず、ややわかりにくかった。枝野氏はふだんから発信が少なかった。
 野党が乱立すると小選挙区でもっと負けたのだから、共産との共闘が間違いとは思えない。それで逃げた票もあるだろうが、連合に揺さぶられ、はっきりしない態度が頼りなく映ったのではないか。
 維新は、小選挙区の大阪だけで15人、兵庫で1人を当選させ、比例近畿は10議席を獲得。北海道を除く比例の各ブロックでも議席を得た。大阪の比例得票率は42・5%と驚異的で、他の地方でも伸び、全国政党になった。
 安倍・菅政権では実質、準与党だったが、岸田政権には対決姿勢を見せ、立憲と並んで無党派層の受け皿になった。
 年齢層では30~50代で支持率が高い。自民は若年層、立憲・共産は高年層で支持が多いのに対し、現役世代をつかんだ。教育・子育てを強調した効果もあった。福祉より経済成長を求める中間層や、ある程度の勝ち組の支持が多いと筆者はみる。
 維新の強さは、①メディア露出、キャッチフレーズの工夫②地方議員、首長を増やす③ポスター、街頭宣伝、地域での日常活動――にある。まず空中戦、次に組織を作る。
 政策や言動は新自由主義志向で、思想・防衛・外交は右派。「身を斬る改革」と言って公務員や労組など他人の身を斬り、議員や首長は不祥事だらけ。大阪のコロナ対策もうまくいったわけではない。
 それでも言葉と映りで、威勢が良い、変革しているという印象を作った。これほどの突風は、SNSなどネットでの発信力が効いたのだろう。
 岸田政権は、維新の拡大と安倍元首相の影響力で右に引っ張られそうだ。医療・社会保障には厳しい状況が続く。
 立憲は、地方組織の弱さと幹部に華がない点が課題だ。辻元清美氏の落選は痛い。
 共産は、旧ソ連や中国の印象が根強くつきまとうことを直視し、党名変更、党首選を真剣に考えたほうがいい。

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