医師が選んだ医事紛争事例 147  PDF

ツロブテロールテープ◯Rで接触性皮膚炎

(50歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、咳嗽・咽頭痛等が2週間程度継続していたため、本件医療機関を受診した。患者は海老アレルギーがあり、当時から他医療機関の婦人科でホルモン治療を目的としてシール剤等を貼付していたが、特に皮膚に異常は認められなかった。
 診察にあたった担当医師は、喘息性気管支炎と診断して、ツロブテロールテープ◯Rを処方した。初診から16日後に患者が来院した際、胸部に貼付して後、間もなくして皮膚の異常が自覚されたことを看護師に伝えた。看護師からはよくあることなので別の箇所に貼り替えるようにとの注意が与えられた。この際、医師に再度診察を受けるよう等のアドバイスはなかった。
 その4日後に、患者から電話でテープによって胸や肩に皮膚炎が生じた、指示のように別の部位の皮膚にシール剤を貼り替えたがそこもひどくかぶれてしまった、との連絡があり、医師は使用を中止して同日に来院するように指示。患者は受診した。
 この日の診察では胸2カ所・右肩上腕2カ所・左肩上腕2カ所に、テープの形状のまま四角形で短冊状に赤茶色の皮膚炎が認められた。医師は、喘息性気管支炎には他剤を処方し皮膚炎にはレスタミン軟膏◯Rとフェキソフェナジン錠◯R(60)2錠を処方し、経過観察とした。また、医師は道義的に謝罪した。
 その後患者は、治療のため、他医療機関の皮膚科を受診した。
 患者は、以下の点に不満を表明した。
 ①医師の処方時にツロブテロールテープ◯Rに関する副作用の説明が不十分であった②副作用が生じた際に医師は十分に状況を把握していたか疑問である③治療費の支払いの是非と補てんについて。
 医療機関は、①②については、患者の主張通り不十分であったことを認めた。しかし、今回の強い接触性皮膚炎はツロブテロールテープ◯Rの添付文書に記載されている「皮膚刺激を避けるため、毎回貼付部位を変えることが望ましい」旨の注意を遥かに超えた異常反応であり、初診から16日後の診察時に貼付を中止して他の治療に変更するかどうかを検討すべきであった。なお、医療機関の知り合いの弁護士に相談した結果からは製造物責任法(PL法)に抵触する可能性をも示唆された。ただ、医薬品副作用救済制度には、入院するような重体でないので適用されないとの返答を得た。
 紛争発生から解決まで約5カ月間要した。
〈問題点〉
 ツロブテロールテープ◯Rの添付文書には「症状が認められた場合には使用を中止すること」とも記載されている。したがって、患者がかぶれを訴えた時点で医師が皮膚貼付部の視診を行い、使用中止の指導をしておくべきであったもので、自ら視診せずに診療補助した看護師の一般論的な説明に任せるべきでなかったものと考えられる。よって、医療過誤と判断された。
 なお、医療機関側が相談した弁護士が、PL法に抵触する可能性を示唆したが、その弁護士は添付文書を見ておらず、上記の注意事項を検討していなかったことから、その判断には疑問を残した。
〈結果〉
 最終的には、医療機関は一応全面的に責任を認めて、賠償金を支払い示談した。早期の示談は賠償額が比較的少額であったことと、早期解決が望ましいと考えられたことによる。またPL法の適用までは無理と考え、その手続きはなされなかった。

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