新型コロナによる施設基準の臨時的取扱いと施設基準管理に係る実態調査結果  PDF

 コロナ禍の状況を踏まえて厚生労働省は、2020年8月31日の事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その26)」で、新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れた保険医療機関等の施設基準の特例を示したり、21年3月10日の事務連絡「令和2年度診療報酬改定において経過措置を設けた施設基準等の取扱いについて」で経過措置期限の延長を示したりしていた。今般、当該経過措置の期限が近づき、またこれら取扱いについて、今後、中央社会保険医療協議会等においても検討が見込まれることから、協会では、府内病院における施設基準管理の現状について把握するため「新型コロナによる施設基準の臨時的取扱いと施設基準管理に係る実態調査」を緊急に実施した。

【調査方法】
 方法:調査票を郵送し、郵送またはファクシミリで回収
 対象:京都府内の全病院(158病院)
 回答:74病院(回収率:47%)
 期間:2021年8月10日~27日

【まとめ】
 病院からの回答は、個々の体制や状況が異なることから、ある施設基準は危機的状況にあるが、別の施設基準では余裕がある等、施設により、ばらつきがみられたのが一つの特徴であった。
 コロナ禍は各病院に引き続き影響を与えており、施設基準要件へも引き続き影響を与えていた。診療報酬の届出施設基準の特例や経過措置期限の延長が認められており、その状況を具体的に尋ねた10項目の施設基準等のうち、「定数超過入院による減額措置」等3項目を除き、半数近くもしくはそれ以上の病院が施設基準に影響する危機的状況にあり、多くの病院が関係する(施設基準の届出が有る)「月平均夜勤時間数」「看護要員対患者割合、正看比率」「平均在院日数、在宅復帰率、医療区分割合等」が含まれていた。実際、コロナ禍の施設基準に与える影響については、9割近い病院が「ある」と回答した。
 一方「コロナ禍で不足しているもの」への回答では、「マンパワー」「気持ちの余裕」が非常に多く、7割を超えた。自由意見でも「ワクチン集団接種へ人員がとられ、職員の確保が難しい」「職員皆、ストレスが溜まっている」との声があり、限られた医療従事者の取り合いが生じている様子や、医療現場の疲弊ぶりが調査でも明らかとなった。対照的に「病床」との回答は非常に少なく、ハード面より先に医療従事者というソフト面のニーズが高いことが分かった。
 以上のことから、コロナ禍収束の目途が立たない現状では、少なくとも、現在示されている施設基準の特例や、経過措置期限の延長が継続される必要があり、さらに多くの施設基準においても特例を設ける必要があること。また医療現場への支援や、将来に向けても十分な医療従事者(マンパワー)の確保が必要であること等が示唆された。

【調査結果】
〈新型コロナに係る診療体制について〉
 1 回答病院が該当する機能や状況(現状およびかつて)(複数回答)
 66病院(89%)の病院が、感染や濃厚接触により出勤不能となる職員を経験していた。コロナ患者の入院受入医療機関も32病院(43%)あった(図1)。

〈臨時的取扱い(その39)で特例が示された施設基準の状況〉
 2-(1) 基本診療料および特掲診療料の施設基準における手術の実績件数等の患者および利用者の診療実績等に係る要件(実績要件)のうち、1年間の実績を求めるもの
 「手術の実績件数等の患者および利用者の診療実績等に係る要件(実績要件)」は、すでに施設基準を満たせなくなった病院が5病院(7%)、いつ満たせなくなってもおかしくない病院が21病院(28%)あり、届出のある病院のうち、約75%が危機的状況にあった(図2)。
 2-(2) 急性期一般入院基本料、急性期看護補助体制加算、地域包括ケア病棟入院料などにおける「重症度、医療・看護必要度」の施設基準
 「重症度、医療・看護必要度」要件は、すでに施設基準を満たせなくなった病院が10病院(14%)、いつ満たせなくなってもおかしくない病院が15病院(20%)あり、届出のある病院のうち、約6割が危機的状況にあった(図3)。
 2-(3) 回復期リハビリテーション病棟入院料1・3における「リハビリテーション実績指数」の施設基準
 「リハビリテーション実績指数」要件は、届出病院が多くなかったが、いつ満たせなくなってもおかしくない病院が3病院(4%)あった。届出のある病院の4割強を占めた(図4)。
 2-(4) 地域包括ケア病棟入院料における「診療実績」の施設基準(1つのみ選択)
 「診療実績」要件は、すでに施設基準を満たせなくなった病院が1病院(1%)、いつ満たせなくなってもおかしくない病院が15病院(20%)あった。届出のある病院のうち、約75%が危機的状況にあった(図5)。
 2-(5) 入退院支援加算3における「小児患者の在宅移行に係る適切な研修」の施設基準
 「小児患者の在宅移行に係る適切な研修」要件は、届出医療機関が非常に少なかったが、いつ満たせなくなってもおかしくない病院が1病院、満たす十分な余裕がある病院が1病院と、状況が二分された(図6)。

〈臨時的取扱い(その26)で特例が示された施設基準等の状況〉
 3-(1) 定数超過入院による減額措置(1つのみ選択)
 「定数超過入院による減額措置」は、対象とならない余裕がある病院が多かったが、一方で、いつ減額対象となってもおかしくない病院も13病院(18%)あった(図7)。
 3-(2) 月平均夜勤時間数(72時間ルール)(1つのみ選択)
 「月平均夜勤時間数」要件は、すでに施設基準を満たせなくなった病院が6病院(8%)、いつ満たせなくなってもおかしくない病院が32病院(43%)あり、届出のある病院のうち、6割が危機的状況にあった(図8)。
 3-(3) 看護要員(職員)の数と入院患者の比率や正看比率(1つのみ選択)
 「看護要員対患者割合や正看比率」要件は、すでに施設基準を満たせなくなった病院が2病院(3%)、いつ満たせなくなってもおかしくない病院が33病院(45%)あり、届出のある病院のうち、半数近くが危機的状況にあった(図9)。
 3-(4)  DPC対象病院への参加基準(1つのみ選択)
 「DPC参加基準」は、対象病院がやや少なかったが、比較的満たす余裕がある病院が多かった。一方で、いつ満たせなくなってもおかしくない病院も3病院(対象病院中21%)あった(図10)。
 3-(5)  平均在院日数、在宅復帰率、医療区分2または3の患者割合等の要件(1つのみ選択)
 「平均在院日数、在宅復帰率、医療区分割合等」要件は、すでに施設基準を満たせなくなった病院が6病院(8%)、いつ満たせなくなってもおかしくない病院が25病院(34%)あった。届出のある病院のうち、半数以上が危機的状況にあった(図11)。

〈コロナ禍における施設基準等への影響について〉
 4 現在のコロナ禍において、入退院・外来患者数の変動や、手術等の延期・件数の減少、患者・家族等との面談・カンファレンス、他医療機関との連携など、施設基準管理に対する影響
 コロナ禍の施設基準等に与える影響については、「大いにある」が32病院(43%)、「ある程度ある」が33病院(45%)で、併せると9割近い病院が、影響があると回答した(図12)。

〈医療現場に足りないものについて〉
 5 現在のコロナ禍において、貴院で不足しているもの、不足していると感じるもの(複数回答)
 「コロナ禍で不足しているもの」との問いに対しては、「マンパワー」との回答が56病院(76%)と最も多く、次いで「気持ちの余裕」が52病院(70%)、「資金・補助金・診療報酬」が50病院(68%)と続いた。対照的に「病床」との回答は非常に少なく8病院(11%)にとどまった(図13)。

(その他の内容)
■コロナ禍における①発熱外来運営に関して、時間的・空間的隔離を実施していること、②ワクチン接種医療機関として運営していることに、費やされるヒト、モノ、カネが非常に経営にとって負担である(①テント、夏期・冬期の冷暖房、照明等の備品、検温実施担当者の雇用・手当、問い合わせ対応。②ワクチン接種に関する看護師・薬剤師・医師への本来業務への影響等)。

自由意見

(施設基準)
■ワクチン接種が進んでも、状況がすぐに変わるとは思えない。診療報酬上の臨時的な取扱いがいつまで続くのか心配。通常の取扱いに戻れば、施設基準が満たせなくなり、取り下げないといけないものも出てくる可能性があり、継続を希望する。
■厚生労働省、地方厚生局との間における内部通知の公表(を望む)。
(人員確保)
■行政からの補助もあり、感染対策は十分に行っていると考えられる。しかしワクチン接種において、集団接種へ人員がとられ、職員の確保が難しい。具体的には当院の規模から、パートによる夜勤者の確保が望ましいが、集団接種の時給の良さから、当院の勤務を減らし、そちらを重視する傾向があった。または募集をかけても全くエントリーがなかった。
■目に見えない業務量の増加がスタッフの負担を増やしています。マンパワーの流動化を進める政策の必要性を強く感じています。安心して医療・介護の業界への転職をしていただき、紹介業者を仲介せず、ハローワークにも活躍いただけますように。
■市中感染が広がっており、いつ職員および家族が感染または濃厚接触者となるかもしれないという不安が常にある。各部署スタッフ数に余裕がない状況で、上記のような事態が発生した場合、診療体制に大きな影響があり、かつ収入面では病院運営に多大な影響が生じることが予想される。行政には早期のワクチン接種実施と医療機関へのさまざまな補助や負担軽減対応をお願いしたいです。
■新型コロナウイルスで職員皆、ストレスが溜まっている。
■コロナ患者対応職員のメンタル的な問題と、ワクチン接種を希望しない職員がコロナ患者の対応をしている点について、どうしていくのか話し合いをしています。
(補助金、経営支援等)
■院内における感染症対策は当然のことながら継続して行っているのに、それに対する国(府)からの補助金は今年度は想定されていない。どういうことなのか!
■医療機関(民間)経営にて、コロナ禍の影響は、受診控えなど収入面で非常に苦しい。資金繰りに追われざるを得ない状況が続いている。補助金関係も手数がかかる割に too little, too lateで、焼け石に水、感は否めない。加えて、行政の朝令暮改的ビヘイビアには多大なエネルギーが費やされる。これらのことから、経営を支える(飲食関係ばかりでなく)資金の支え(診療報酬での対応等)が不可欠である。
(コロナ対応)
■医療機関にだけで良いので、発熱外来をされている医療機関の一覧が欲しい。
■現在は有事のため各々が協力して対応する必要があります。
■当院は長期療養を目的とした慢性期中心の病床で構成されている。入院患者は高齢、寝たきり状態の人がほとんどで、感染症発生時は重症化のリスクが非常に高い。診療設備や人員配置の面においても新型コロナウイルスの診療体制を取ることが難しいこともあり、当院では現状の体制を維持していくことで精一杯と考えます。
■感染拡大第5波で爆発的な拡大が起こっているが、京都府が確保していると言っている病床と実際の病床(確保病床より少ない)との乖離があり、危機的状況にあり、このままだと医療崩壊は時間の問題です。京都府のよく言う「オール京都」で府内の全医療機関が協力する必要があり、京都府が病床確保に向けて、大阪府のように積極的に働きかける必要がある。
■夜勤帯(18時以降)のコロナ陽性者の入院受入に時間を要することが多い。
(コロナワクチン接種)
■地域の新型コロナウイルス感染を抑え込むため、基本接種医療機関としてワクチン接種を5月末から1日120人、週に600人の方に接種してきましたが、7月に入りいきなりV-SYSから従来2週間に1箱(195バイアル)配給されていたものがストップし、京都市から週に8バイアルの配給に変わってしまいました。地域の方々からの苦情もあり今後の先行きも見えず困惑しているところです。
■まん延防止のため、ワクチンの集団接種を拡大してほしい。
■新型コロナワクチン接種のスピードアップと感染経路の遮断の徹底を望みます。
(診療報酬・審査)
■当院は精神科病院です。「解散できない集団」で、マスクを着用していただけない方も多くいます。1例であっても病棟内に陽性の方が入られると、クラスター化の懸念が大きく、非流行期でさえも緊張が続きます。一般的な感覚よりもおそらく多くのPCR検査を要しています。安全な施設運営のため必要であると考えて行っておりますので、今後も認めていただきたいです。

図1 新型コロナ診療体制

図2 手術や利用者の実績要件で1年間の実績が求められるもの
(総計)
すでに満たせない 5 7%
満たせなくてもおかしくない 21 28%
満たす余裕あり 9 12%
届出なく非該当 36 49%
回答なし 3 4%
(届出有る病院のみ)

図3 重症度、医療・看護必要度
(総計)
すでに満たせない 10 14%
満たせなくてもおかしくない 15 20%
満たす余裕あり 18 24%
届出なく非該当 28 38%
回答なし 3 4%
(届出有る病院のみ)

図4 回復期リハ1・3の「実績指数」
(総計)
すでに満たせない 0 0%
満たせなくてもおかしくない 3 4%
満たす余裕あり 4 5%
届出なく非該当 59 80%
回答なし 8 11%
(届出有る病院のみ)

図5 地域包括ケア病棟の「診療実績」
(総計)
すでに満たせない 1 1%
満たせなくてもおかしくない 15 20%
満たす余裕あり 5 7%
届出なく非該当 47 64%
回答なし 6 8%
(届出有る病院のみ)

図6 入退院支援加算3の「適切な研修」
(総計)
すでに満たせない 0 0%
満たせなくてもおかしくない 1 1%
満たす余裕あり 1 1%
届出なく非該当 65 88%
回答なし 7 9%
(届出有る病院のみ)

図7 定数超過入院
(総計)
すでに減額となった 0 0%
いつなってもおかしくない 13 18%
ならない余裕あり 60 81%
回答なし 7 1%
(回答病院のみ)

図8 月平均夜勤時間数
(総計)
すでに満たせない 0 8%
満たせなくてもおかしくない 32 43%
満たす余裕あり 25 34%
届出なく非該当 11 15%
回答なし 0 0%
(届出有る病院のみ)

図9 看護要員対患者割合、正看比率
(総計)
すでに満たせない 2 3%
満たせなくてもおかしくない 33 45%
満たす余裕あり 39 53%
届出なく非該当 0 0%
回答なし 0 0%
(届出有る病院のみ)

図10 DPC参加基準
(総計)
すでに満たせない 0 0%
満たせなくてもおかしくない 3 4%
満たす余裕あり 11 15%
届出なく非該当 56 76%
回答なし 4 5%
(届出有る病院のみ)

図11 平均在院日数、在宅復帰率、医療区分割合等
(総計)
すでに満たせない 6 8%
満たせなくてもおかしくない 25 34%
満たす余裕あり 28 38%
届出なく非該当 15 20%
回答なし 0 0%
(届出有る病院のみ)

図12 コロナ禍は施設基準に影響あるか

図13 コロナ禍で不足しているもの

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