弁護士が対応方法をお答えします
「カルテ開示請求」
あやめ法律事務所
福山勝紀 弁護士
Q、患者の遺族から急にカルテ開示の請求がありました。開示理由は聞いていませんが、診療内容等に対する不満や訴えは特にないことから、おそらく相続争いが絡んでいるのではないかと考えます。カルテを見せてしまうと、相続争いに巻き込まれるのではないかと心配しています。この場合、カルテ開示を拒否することは可能でしょうか。
A、まず前提として、個人情報保護法第2条第1項は、「『個人情報』とは、生存する個人に関する情報」であると規定しているので、遺族が死者の診療情報の開示を求める場合は、同法の対象外です。
東京高裁2004年9月30日判決では、「医療機関は診療契約に付随する義務として、特段の事情がない限り、医療行為が終わった際にも、その結果について適時に適切な説明をする義務を負う」とし、遺族への説明も必要であることを判示しました。
いわゆる顛末報告義務と言われていますが、これを前提にすると、遺族からの診療情報の開示の場合でも、カルテ開示に応じなければならないと考えられます。
しかし、遺言書の有効無効を争うといった相続争いが起こっている場合、日本医師会が定める「診療情報の提供に関する指針」には、「遺族間に争いがある場合には、一層慎重な配慮が必要とされる」と記載されています。
この点は、考え方が分かれるところではありますが、私としては、開示に応じる方が良いと思います。なぜなら、仮にこれを断ったとしても、裁判所からの文書送付嘱託(本紙3101号参照)等がなされ、結論的に出さざるを得ない場面がほとんどだからです。
ただし、患者本人が生前に病状を家族に秘密にしていた場合等、患者本人の生前の意思、名誉等を十分尊重する必要があるというケースでは、開示を拒むこともできます。
また、相続紛争に巻き込まれるかどうかという点ですが、基本的に、裁判の証人として呼ばれることはないと思っていただいてよいと思います。
念のため述べておきますが、遺族からカルテ開示の請求を受けた場合は、戸籍の提示を受ける等して相続関係が本当にあるかどうかを確認することが必要ですので、忘れないようにして下さい。
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カルテ開示を請求された際は、口頭での依頼に応じるのではなく請求書の提出を求めて下さい。協会ホームページでは、診療記録開示請求書の見本を掲載しています。左記QRコードからダウンロードできますので、ご活用下さい。