私が医院を開業したのは昭和43年です。地区の保育所に入所できず、0歳児を抱えながら診察を行っていました。開業前に勤めていた病院勤務時代に子どもを産み、育児休暇はとらずに復帰。乳呑児を連れて病院へ出勤していたのですが、勤務中は病院スタッフが誰かしら子どもの面倒を見てくれました。
開業後も似たようなものです。開業当時、あいさつに行った先の地区の先生方からぜひとも往診をしてほしいと言われました。しかし、家には赤ん坊がいます。躊躇していると、医師仲間だけでなく近所の人たちが「しっかり仕事しよし。子どもの面倒は見てあげるから」と背中を押してくれました。
時には子どものおしめまで洗濯してもらい、ご近所の物干しで我が子のおしめがはらはらと風に揺れていることもありました。夕飯のおかずのおすそ分けもよくいただきました。そんなこんなで、うちの子どもたちは地域で育ててもらったようなものです。
昭和48年には向日市から今の長岡京市に転居しました。患者数も増え、職員を雇用することが可能になりました。
開業当時から患者さんに伝えていたことがあります。「地域のいろんなサークルに入って楽しもう! 愉快な人間関係ができたら、それは宝やで。困った時の助け合いが遠慮なしでできるしナ」と。私自身がそうでしたから。
認知症についても、歳をとれば誰しもが認知症になる可能性がある。少しも恥ずかしい病気ではないと、ことあるごとに話していました。「隠したらあかん。家族だけに頼ったらあかん。私も将来なるかもしれんし、その時はみんなに頼るで」と。そういった土壌があるからか、少し兆候が見られると「先生、私、認知症になったかもしれん!」とご本人が自ら検査に来られたりしました。
地域の人たちと一緒に認知症の理解を深めつつ、前回紹介したような地域での活動を行っている中、最近では地域の見守りに犬の飼い主さんグループが加わりました。犬の散歩で地域を歩く飼い主さんは、絶好の見守り隊です。少し様子がおかしい高齢者を見かけたら声をかけてもらったり、万が一行方が分からなくなったときに一緒に捜索をお願いすることになりました。
飼い主さん同士は常日頃から犬の散歩で顔を合わせていて、顔見知りです。介護家族の会でも犬を飼っている人がいて、飼い主さんを学習会に誘ったりして、繋がりました。すべての飼い主さんというわけではなく、その中の有志の人たちですが、この地域の見守りが一段と心強くなりました。喜ばしいことです。
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