鈍考急考 17 原 昌平 (ジャーナリスト)  PDF

課税対象にして全員に一律給付金を

 もっと頭を柔らかくして工夫できないだろうか。
 菅政権のコロナ禍に対する施策は、従来の延長線上のものと、場当たりが多い。
 コロナ禍は、地理的に広範囲の大規模災害のうえ、時間的に長く続いている。生活・経済への影響も大きい。
 こういう事態には平時の制度の活用に加え、臨時の思い切った施策が求められる。
 昨年夏に支給された1人10万円の特別定額給付金は、そういう施策の例だった(支給事務の遅さはお粗末)。
 これだけ事態が長引いているのだから、改めて、日本で暮らす全員を対象に一律給付をやるべきではないか。困窮世帯に限定せず、毎月7万円ぐらい配ってはどうか。
 ただし、次からの給付金は課税対象にするべきだ(昨年の特別定額給付金は非課税)。
 国からお金をもらえば、その人の収入は現実に増える。年間所得に応じてふだん通りに課税すればよい。一定以上の高所得者は特別な計算をして給付の全額を吸い上げる。
 その方式なら、低所得の人ほど手厚い支援になり、高所得者には援助しなくて済む。国や自治体にはある程度の税収が戻るので、実質的な財政負担は巨大にならない。
 全員への一律給付なら経済効果が大きく、税収も増える。まさにお金が回る。
 給与・年金所得の人は年末調整で済み、確定申告でも計算は簡単にできる。所得をごまかす不届き者も出るだろうが、制裁を重くすればよい。
 国から配ったお金に課税して国に戻すのは変? そんなことはない。事業者向けの持続化給付金、家賃支援給付金などは課税対象だし、老齢年金も課税対象になっている。
 公的にお金やサービスを給付するときには、大別して二つのやり方がある。
 一つは「選別主義」で、要件や基準を満たす人だけを給付対象にする。生活保護、児童扶養手当、介護保険サービスなどは、これにあたる。
 本当に必要な人に絞ろうとするため、基準が複雑になったり、逆に機械的になったりする(持続化給付金は売上50%以上減という線引き)。
 制度がわかりにくく、各種の書類や情報も求められるので、申請しにくい。審査も手間がかかる。利用者の恥の意識や、納税額が多いから利用できないのは不合理だという不満、やっかみを生み、社会の対立・分断にもつながる。
 もう一つのやり方は「普遍主義」である。一定の属性にあてはまる全員に所得制限せずに給付する。民主党政権時の「子ども手当」がそうだった。医療保険の療養の給付もこちらに近い。審査は簡便だが、ばらまき、青天井、放漫財政と批判されやすい。
 コロナ禍の影響はまだらだ。打撃の深刻な業種、職種がある一方で、好調な業種、影響のない職種もある。
 「最終的には生活保護がある」と菅首相は1月の国会で答弁した。しかし困窮者を助けるのは当然のこと。中間層を含めて困窮状態に至らないように予防する手だてを講じるのが政治の役割だろう。
 本当に困りそうな人をより分ける作業に労力と費用を注ぐより、政府が持つ税制の仕組みを活用してはどうか。

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