医師が選んだ医事紛争事例 137  PDF

左橈骨頭脱臼を見落とし、陳旧化

(10代未満満男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は学校の体育館で手摺りを飛び越えようとして失敗し、左手をついて転倒した。患者は本件医療機関でレントゲン撮影を受け、「左肘関節捻挫・関節内血腫」と診断された。医師は、フィルム上で明らかな骨折を認めなかったがギプスシーネで固定した。約2週間後にもレントゲン撮影をしたが、医師は特に骨折・脱臼などの異常はないと判断した。そこで、さらに約2週間後にレントゲン撮影をした後、ギプスシーネを除去して左肘運動療法等を開始した。しかし、患者は症状が改善しないことから、ギプスシーネを除去してから約3カ月後にA鍼灸接骨院を受診し、そこで「完全に脱臼しており、この状態でリハビリは駄目」と言われたため、別のB医療機関の整形外科を受診した。その後、C医療機関でCTスキャン撮影後に「左陳旧性橈骨頭脱臼骨折」と診断され、D医療機関に入院となり、手術を受けた。手術から約5カ月後には、固定したネジ4本の内、2本を抜去する手術を受けた。
 患者側は、左橈骨頭脱臼骨折を見落としたことは事実として、医療費等について賠償請求を行うとともに、その後弁護士を介して証拠保全を申し立てた。
 医療機関側としては、最初にレントゲンを撮影した時点では、左橈骨頭脱臼骨折は認められないが、その2週間後、4週間後に撮影したレントゲン撮影では、骨折は写っていないものの、左橈骨頭脱臼は写っており、脱臼の見落としは明らかであったとして、その点については全面的に医療過誤を認めた。
 紛争発生から解決まで約8年8カ月間要した。
〈問題点〉
 最初にレントゲン撮影をした日から、約2週間後と約4週間後に撮影したレントゲンそれぞれ左橈骨頭脱臼が認められるため、見落としがあったことは事実である。尺骨に骨折を伴うMonteggia 骨折でも見落とされることがあり、単独の橈骨頭脱臼ではさらに注意が必要である。次に、約3カ月間の発見の遅れによって3カ月近く手術施行が遅れたことになるが、仮に最初にレントゲン撮影をした約2週間後に発見されていたとして、例えば後遺症がひどくなったとか手術の規模が大きくなったとかどの程度、損害の差があったかは、D医療機関のカルテが確認されていなかったので判断できなかった。
〈結果〉
 医療機関側は一部医療過誤を認めて、患者側に説明を試みたところ、改めて賠償請求をする様子が窺われなかったので、最終的に立ち消え解決と見做された。

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