医界寸評  PDF

 生きるとは、食べること・笑うこと・歌うこと・歩くこと。これは尼崎市で在宅医療と在宅看取りに邁進している「町医者」こと長尾和宏氏と、同伴訪問看護師が最近上映のドキュメンタリー映画「けったいな町医者」の中で、在宅看取り予定患者に語りかけた言葉である。人間のみならず動物も植物も生きとし生けるもの全て、必ずその時が来れば、分解・消滅して分子レベルで輪廻転生を繰り返す▼これは、避け得ぬ運命なのでくよくよせず、その瞬間まであるいはせめて前日まで健康長寿で食らい・笑い・歌い・歩き続けて、往くならそのあと平穏にポックリ死で往きたい▼ただし、終末期になって苦痛症状を呈して死線をさ迷うと、周りの介護者・家族が見るには耐えずと救急車を要請して、自ずと枯れ逝く大往生の夢は失せ、経管栄養や水分の過剰補給から「ベッド上での溺れ死に」の悪夢に終わるから要注意とされる▼問題は、その時を確定的には予測・決定できず、最期の日は、「つひにゆく道とはかねて聞きしかど きのふけふとは思はざりしを」(伊勢物語125段)ともあり、昨日までそれが今日だとは分からぬものらしい。その際、ただ死期を引き延ばすだけの延命措置は望まず尊厳ある死を迎えたいのなら、元気な内に書面でリビングウィルを残しておくよう勧められている。(卯蛍)

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