政府は、流通するデータの多様化・大容量化が進展し、データの活用が不可欠であることなどを理由として、「デジタル改革関連法案」を国会に提出した。
内閣総理大臣を長とする強力な総合調整機能(勧告権等)を有するデジタル庁を設置する。個人情報関係3法を一本化する。地方公共団体の個人情報保護制度も統一化して国が管理する。マイナンバーカードの普及推進、国家資格や預金口座をマイナンバーに紐づけて管理する―などがその内容である。
医療分野ではデータヘルス改革として保健医療データプラットフォームが計画されている。電子カルテや健康診断データなどのビッグデータを活用して、新たな治療法の開発や創薬、科学的な介護の実現を加速させようというもので、法案に直結する内容である。
保健医療データは病気や健康に関わる個人の機微な情報である。法案に対して日弁連が「プライバシーや個人情報の保護を後退させるおそれが強く危惧される」と指摘しているのは当然である。ヒポクラテスの誓いでは「医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る」とある。古今東西、プライバシーや個人情報は、医師が守らなければならない医の倫理の最優先事項である。デジタル化推進を急ぐあまり、個人情報保護を疎かにしてはならない。国会での慎重かつ時間をかけた審議を求めることは医師の責務ではないか。
世界医師会が掲げる自律(autonomy)あるいは自己決定は、国際的に認められたプロフェッショナリズムの核心的な価値である。医師などの国家資格をマイナンバーに紐づけて管理しようとするのはプロフェッショナル・フリーダムへの挑戦である。自由と自律を欠くところに医療の質の向上はない。
医療提供体制改革などを推進する医療法改正法案の国会審議が始まっている。これまで国の医療提供体制改革には、医療費や医師の拡充ではなく、地域医療の確保を大義名分にして医師に対する強制を強める方向が色濃く滲んできた。新型コロナ緊急事態宣言下の感染症法改正では、病院に対する患者受け入れ強要が盛り込まれた。国家資格の一元的な管理は、有事の際の医師や医療動員につながりかねないことが危惧される。
患者にとっても、医療の専門家にとっても、わが国の医療提供体制にとっても問題が多い法案である。
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