2015年10月に発足した医療事故調査制度は丸5年を迎え、20年の10月に日本医療安全調査機構(以下、機構)が「医療事故調査制度開始5年の動向」を公表した。全体の報告件数を見てみると1年目388件、2年目363件、3年目378件、4年目371件、5年目347件と年間おおむね370件前後で推移しており、機構が、当初年間の報告数を1300~2000件と試算していたことからすると、5年目を迎えてもなお苦戦している様子が伺われる。
その原因は、報告対象となる「医療に起因、または起因すると疑われる死亡または死産であって、当該管理者が当該死亡または死産を予期しなかったもの」の「医療に起因」と「予期しなかった」という部分の判断基準の曖昧さもさることながら、やはり一番の問題は遺族による医療事故報告書の利用の問題ではないだろうか。各医療機関は、医療事故調査・支援センター(以下、センター)に医療事故を報告することによって、もしかしたら罰せられるのではないかと憂慮し、結果として報告を躊躇している側面があるのではないかと推測する。患者家族が法的手段に訴えることは自由であり誰からも阻害されるべきものではないが、そこに医療事故報告書を使用するかどうかは別問題であり、患者家族には慎重な対応が求められる。
本制度は、事例を集積し「医療安全の向上と再発防止」が主目的であり、決して原因追及(=責任追及)のために利用されてはならない。これは制度の根幹であり、機構もこの点についてはしっかりと周知・徹底し、適切な運用に努めなければこの先も状況は変わらないだろう。
昨今、患者の遺族で構成する団体などは、厚生労働省に対して医療機関がセンターから事故の報告を推奨されても、実際には報告されないケースを問題視。今後は指導や勧告を経て、医療機関名を公表するよう求めた。また、センターの独自調査や、個別の調査報告書の要約版の公表も併せて要望している。
本制度は、医療従事者と患者双方が医療安全の向上を願って実現した制度だが、このままでは医療機関と患者の溝が深まるばかりである。重要なことは同じような医療事故を繰り返さないためにどうするかである。
丸5年の節目に、機構は本制度の実効性を高め、よりよく機能させるためにどうすればよいのかあらためて考えるべきである。
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