シリーズ環境問題を考える 148  PDF

残された時間はそう多くない 差し迫る気候危機

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)は、収まる気配を見せない。1月7日付で、世界の感染者は8718万人、死亡者は188万人。日本の感染者数は26万6954人、死亡者は3898人となり、同日遅ればせながら政府が4都県に「緊急事態宣言」を再発令。現在は11都府県が対象となっている。
 20世紀に入ってから多発する新興感染症は、エイズ、エボラ出血熱、ウエストナイル熱、SARS、MERSなど。ウイルスが中心となった人畜共通感染症である。森林の中でひっそりと宿主と暮らしていたウイルスが、環境の変化の中で牙をむいて、人間に襲いかかってきたのである。世界の陸地の3分の1を占める森林面積は減少傾向にあり、1990年以来の30年間に、日本全土の4・7倍に匹敵する178万㎞の森林を失った。そのため、野生動物は減少し、野生動物を宿主としてきたウイルスは生存戦略として遺伝子変異を起こし、家畜やブッシュ・ミートなどを介して人間社会に入り込んだと考えられている。森林破壊は人間の商業伐採、焼畑、宅地開発などの森林開発という経済活動だけでなく、地球温暖化による熱波、乾燥、森林火災などによってもたらされている。
 コロナ禍で世界中の諸都市がロックダウンし、経済活動や人の往来、航空機の運用が劇的に減少したため、二酸化炭素排出量は一時的に減少した。しかし、経済活動が再開される中で再び上昇傾向にある。気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」は、気温上昇を2℃未満に抑えることを目指し、可能ならば1・5℃に抑えるという努力目標を掲げている。
 米国の歴史学者ジャレド・ダイアモンドは『危機と人類』で、現代の四つの危機として核兵器、地球温暖化、格差と貧困、地球資源の枯渇を指摘している。気候変動の脅威は核兵器よりも全面的であり徹底的である。19年はスウェーデンの若き環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが“私たちの家(地球)は火事なのです。火事の時のように行動しよう”と、気候ストライキをうち、国連でスピーチをした。それに呼応して若者や市民、科学者たちが立ち上がり、世界各地で集会やデモが持たれた。COP(気候変動枠組み締約国会議)で化石賞を何度ももらいながら日本政府は20年10月にやっと“温室効果ガスを50年に実質ゼロ”と菅首相が宣言した。しかし、エネルギーの主力を担うCO2排出が多い石炭火力発煙や危険性の高い原子力発煙を本気で削減し、再生エネルギーを最大限活用する具体的道筋はほとんど示されていない。アドバルーンは挙げたが、経産省と環境省は足並みがそろわない。知事の了承を得たとして「女川原発」は再稼働、産業界からは電力源として新しいタイプの小型原発建設を要求されている始末だ。
 人間の限りなき欲望と経済活動の発展により、温室効果ガスの増加、自然の乱開発、ヒト・モノ・カネ・情報のグロバリゼーションが地球温暖化やコロナ禍を招いた。20年の「環境危機時計」は9時47分を指している。ちなみに97年は7時49分である。残された時間はわずか2時間余り。気候変動、パンデミックへの対策や生物多様性を維持するには、脱成長、国際協調、本気の再生可能エネルギーへの転換、環境を重視し「地産地消」するライフスタイルへの変換、都市への人口集中をやめ地方への分散、強い分権機能を持つ地方自治の確立などがキーワードとなる。
(環境対策委員・山本昭郎)

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