慢性静脈不全の正しい理解と評価を 外科診療内容向上会を開催  PDF

 外科診療内容向上会が2020年11月21日、京都外科医会と京都府保険医協会の共催で開催された。京都外科医会の福州修副会長が会を進行し、ネット参加を含む37人が参加した。まず京都外科医会の猪飼伊和夫会長と協会の鈴木卓理事長があいさつし、協会の曽我部俊介理事による保険医協会の事業紹介が行われた後、特別講演として、医療法人澄心会岐阜ハートセンター形成外科部長の菰田拓之氏が講演した。

外科診療内容向上会レポート

 特別講演として、医療法人澄心会岐阜ハートセンター形成外科部長の菰田拓之氏をお招きして、「あしの外来でみる静脈に関する症状とは?―慢性静脈不全 あしのしびれから静脈性潰瘍まで―」を講演いただきました。
 下肢静脈瘤は一般診療において非常に馴染みが深い疾患です。しかしその原因や病態、治療方法が必ずしもよく理解されているとは限りません。動静脈疾患に関連する形成外科手術から血管バイパス術、インターベンションに至るまで幅広く治療に当たられている菰田先生の講演内容は、非常にわかりやすく外来での診療に役立つ内容でありました。
 慢性静脈不全とは、さまざまな原因により起こる下肢静脈高血圧に起因する病態です。足部の静脈還流は、動脈の押し上げと歩行荷重による足底刺激によって生じます。下肢を運動させると筋ポンプ作用によって、下肢静脈圧は低下します。しかしながら慢性静脈不全では、静脈圧が低下せず、常に下肢静脈圧が高い静脈高血圧症の状態になっています。慢性静脈不全に対する治療法には、血管内焼灼術を始めとする手術療法や弾性ストッキングを用いた圧迫療法が行われています。それに加えて生活指導、特に正しい歩き方の指導と歩数の確保の重要性を強調されていました。静脈高血圧症の予防には、1日7000歩程度の歩行が推奨されています。欧米では子どもの頃から、正しい靴の選び方や靴紐の結び方を教えられています。それに対して日本ではそのような習慣はありません。また生活様式の洋風化によって、長時間座っているのも問題だそうです。日本人は足趾が硬いために底背屈がうまくできず、静脈還流の促進につながりません。外来で患者の歩く様子を動画撮影して、歩き方の指導を行っています。それでも足が硬い場合にはストレッチ体操を3カ月間続けて、足趾や足関節を柔らかくするように指導されています。足のしびれや痛み、浮腫といった随伴症状に対しては、弾性ストッキングよりも弱圧の筒状包帯を長時間履かせる方が効果的だそうです。下肢を一日中圧迫することによって、日中は予防効果、夜間は改善効果が期待できます。あくまでも圧迫療法は補助的なもので、運動療法の方が静脈還流に対する効果が大きいのです。
 このように慢性静脈不全について正しく理解し、適切な静脈評価を行い保存的療法と手術療法を組み合わせて行うことが大切であります。(山科・松村博臣)

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