病診連携で右京式発熱外来
松井亮好・右京医師会長にきく
新型コロナウイルス感染症に対応すべく、協会は数次にわたり行政に公的発熱外来の設置を要望。設置は、京都市であれば11行政区ごと、府内はできれば市町村ごと、最低でも二次医療圏単位での設置を求めている。一方で、すでに各地域で地区医師会が中心となり、発熱外来や検査センターの設置など主体的な実践がなされている。今回は、病診連携で発熱外来に出務している右京医師会の松井亮好会長(京健会西京病院・院長)に話をお聞きした。
――再発熱外来設置の経緯について
右京区にいくつか病院があるが、複数の専門科に特化した病院はあったが、総合的な科目がいくつもあるような大規模な病院が不足していた。そこに、19年秋、京都民医連中央病院が移転。移転にあたっては丁寧に地区医師会との対話を進めてもらい、かかりつけ医となる開業医との連携強化、あるいは周辺病院も含めた地域のネットワーク構築への期待をもって迎えた。
現在設置している中央病院敷地内での発熱外来への協力は、ここ数年で急増している災害対策についての話し合いが発端となった。万が一、災害に見舞われた際に地区医師会も協力する形で、機能するような仕組みができないかと、病院と協議を始めていたところだった。
そうした話を進めているうちに20年になり、新型コロナの流行が始まった。これも一つの災害という捉え方で、新型コロナでも協力体制をとれないかと病院側と相談。病院の敷地にテントを張り、右京医師会が協力しており、これは協会が主張されている公的発熱外来のイメージにつながるかもしれない。また、設置してもらった発熱外来に出務することで、地区の会員も新型コロナの流行の度合いなどを肌感覚で知り、この疾患に対する基本的な考え方、診療の実際を学べるのではないかとも考えた。
出務を開始したのは8月中旬以降、第2波後ぐらい。その段階では、流行状況が比較的下火だったので、今後の爆発的拡大に備えるという意味合いが強かった。
――出務状況について
医師会員9人が交代で出務。現在の第3波と言われている状況でも、先日私が出務した際には6人ぐらいの患者数だった。今後のインフルエンザの流行に備える必要はあるが、今のところ多くの患者が押し寄せているということはない。しかし、クラスター関連で陽性の可能性が高い人たちがセンターから紹介されて受診されることも多く、実際に陽性が何例か出ている。
患者が自ら調べて受診される場合もあるし、かかりつけ医からの紹介で受診される場合もある。トリアージは病院看護師がしっかりと行っており、すぐにでも入院が必要と判断されれば、発熱外来を通さず入院措置となる。
――診療・検査医療機関の非公表について
非公表なので地区医師会でも情報共有は難しいが、府の相談センターはある程度把握しており、センターからの紹介で受診される患者もいる。当病院も少数ながら発熱患者を受け入れており、そういった意味では中央病院にすべての患者が集中している状態ではなく、バランスを保つことができているのではないかと考えている。
地区において、年に一度開催する地域医療懇話会での症例発表で新型コロナへの対応状況を演題として発表された会員もおり、アクリルのパネルの設置などかかりつけ医における具体的な対応を示してもらった。このディスカッションである程度かかりつけ医も積極的な対応をされていることがわかった。地区の病院もほとんどが集合契約をしており、中央病院にも基本的に会員からの紹介は受け入れてもらっているので、大変心強い。なおかつ現状では、そこに患者が集中し過ぎているということはない。
京都府医師会や行政が先々を見据え体制を整えてきており、現時点では幸いにも医療崩壊が危惧されるところまでは至っていない。しかし、発熱患者受入医療機関の情報共有は地区医師会の会合などでの口コミに頼っている部分が多く、大きな課題である。どの地区においてもさまざまな情報を全ての会員に周知する困難さに直面しており、保険医協会にはその情報共有のあり方について少しでも風穴を開けてもらえればと期待する。
――今後の体制について
現在も中央病院とは協議を重ねており、今日も会合を持ちこのままの体制維持でよいのか、患者数増加に備え外来規模を大きくしたほうがよいのか、などを相談する予定だ。病院の意向も確認しなければいけないが、患者数が爆発的に増えた際には今の発熱外来の業務をもっと分業化し効率よくしたり、今よりも医師会から出務する医師を増やすといったことも考えられる。頻繁に意見交換を行っていることで、状況に応じて形を変えられる柔軟性が担保できている。本当にありがたく、心から感謝している。中央病院が移転していなければ、我々は本当に困っていただろうし、地域の住民の安心にも繋がっている。
右京では、いざという時患者を受け入れてくれる医療機関があるという安心感のもと、かかりつけ医が可能な範囲で診療するという機運を11月末までに作り上げられたのではないかと感じている。しかし、まだまだ不安や疑問を抱えている会員への情報提供のあり方も模索しながら、引き続き対応を行っていきたい。
――協会は、各地区が独自に実施し始めている新型コロナへの対応について、出務費をはじめとした包括的な支援を自治体に求めたいと考えています。
地域ごとでいろいろな形があるだろうが、そういった支援のもと「発熱患者を診る」ということに一つでも多くの選択肢が増えればよいと思う。まずは第3波が収まってくれればと切に願っている。