私のすすめるBOOK 社会的経験・実践的知識に裏打ちされた 司法制度改革に詳しい書  PDF

 ご一読をお勧めしたいのは、知人の著作で残念ながら書店にはない。恐らく著者の仕事場である京都中央法律事務所にまだ15冊残されているとお聞きしているので、この小評に偶々心動かされた方ならば、連絡して贈呈をお受けになればと思う。莇立明氏のこの本書は、氏が京都府保険医協会元顧問弁護士で、医療安全対策部の委員会で、私も被告病・医院側に立っての発言を聴いたり、業務遂行への模様を背中から拝見したりして、いつの間にか臨床的・実践法学上の師ともなっていた氏の一種の私的歴史書である。
 なぜ、送付・贈呈を受けすでに13年も経った今頃推薦・紹介するのかは、当時、1頁目の「「法曹一元」・「陪審」裁判とは」の上段16行、下段16行中14行を読み、医師の私にはそれ以上の関心が湧かず、長年図書棚に並べていたのを、この9月そろそろ終活開始と小児科医の妻が手に取り、「おもしろいじゃない!」と言ったからである。例えば、「弁護士会館の裸婦画について」なんか傑作と喜んでいた。羊水検査の説明なくダウン症児分娩訴訟や無説明硬膜外麻酔無痛分娩訴訟も興味深かったとのことである。
 読書時には私はまず、前書き、後書きを読み、その後に初頁から読み進めるのであるが、著者が一番言いたいとして最初に持ってきた文章は、大よそ難しくしかも当時まだ関心のなかった「法曹一元」についてであり、頓挫したようである。今あらためて、妻の勧めにも従い、後ろからみると、「六、随想―その時々」「五、憲法『改正』をどう考えるか」「四、医療、そして裁判」「三、弁護士・弁護士会―その歴史と議論―」「二、司法・『司法改革』とは」「一、陪審・参審・裁判員制度」との内容であり、いずれも当時の重要問題に対する氏の見識ある意見が実感的・説得的に執筆されており、逆順にした効果もあり今回は円滑に読み進められた。医師の私には法曹三者一元であることからどう法曹一体であるのか否かは不詳であるが、少なくとも、社会的経験・実践的知識の豊かな弁護士が裁判官にも任官され、人間的にも成熟した者からの事実認定・司法判断がより重要で好ましいことなどは、医師の社会通念からもよく理解できる。
 氏の協会元顧問時には、原告(患者・遺族)側へ消極的要件(本人の疾病・傷害など私病起因性)の否定を求めて証明責任の転換を図るなど、相手方には嫌味な辣腕弁護士だなあと思って発言を聴いていたこともあったが、本書では、我々にも関連する裁判員制度を含めて司法制度論に大変詳しい記載で、弁護士登録後も立命館大学法学部で講師として同テーマに関わる講義をしたり、京都弁護士会会長や日弁連副会長も務め、欧米の司法状況を視察したりするなど、2足・3足のわらじを履いてこられたのを今頃知った次第である。益々のご健勝ご活躍を祈り、筆をおく。
(宇治久世・宇田 憲司)

莇 立明 著
『檸檬(れもん)通信』
2007年10月18日発行
京都中央法律事務所
TEL 075-222-0461
ファクス 075-222-0463

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