医療従事者の需給に関する検討会が第35回医師需給分科会を8月31日に開催。2020年の「医師需給推計の結果」を公表した。
新型コロナウイルス感染症拡大により立ち遅れていた21年度まで「暫定的に延長されている医学部臨時定員」の22年度以降の取扱いの議論に向けた推計だが、コロナ禍で明らかになった従来の医療提供体制政策の問題点を何ら見直すことなく、医師養成数管理の従来スタンスを崩さないものとなった。
なお、分科会は22年度の医学部臨時定員について、暫定的に20~21年度と同様の方法で設定することを了承。23年度以降の臨時定員の在り方は来春までの検討に預けられた。
29年には医師需給が均衡と推計
「20年度医師需給推計」にあたっては、前回までとほぼ同様の推計方法が採用され、医師の供給と需要についてそれぞれ推計した上で導き出されている。※1
医師の供給は20年の医学部定員9330人を基に、国家試験合格率・再受験率・医籍登録等を過去10年のデータから反映。かつ年代別・性別の「仕事量」を加味して算出。40年に38万人の医師が供給されると推計した。
医師の需要は、臨床に従事する医師について、入院医療は「地域医療構想等の必要病床数」に「病床数あたり医師数」を乗じて推計。外来医療については「直近の外来患者数」から導き出している。
臨床に従事しない医師は、医育機関・産業医・行政機関・製薬業界・国際分野・その他について、それぞれ推計している。
以上から、医師需給推計を行い、結果、労働時間を週60時間に制限する等、医師の働き方改革の進捗を踏まえた場合、29年頃に約36万人で需給均衡、以降は医師過剰となるとした。
「偏在是正」掲げ
医師への制限視野に
もとより、この医師需給推計は18年に国会成立した改正医療法・医師法に基づく医療提供者改革のプロセスに位置付けられている。同法は14年の医療・介護総合確保推進法による病床機能報告・地域医療構想の導入によって都道府県に機能別病床数管理(≒抑制)を担わせる仕組みを構築したのに続き、医師数(専門科別)管理も都道府県に担わせるものである。国は将来、フリーアクセス・療養の給付、それらと一体である医師のプロフェッショナルフリーダムの制限を視野に入れつつ、まずは医師数のコントロールに着手しているのが現段階と言えよう。医師需給推計によって絶対的医師不足を否定し、その上で「偏在是正」を掲げて、医師の就業や開業の制限に第一歩が踏み出されているのである。その意味で、医師需給分科会の推計は国にとって重要な位置づけにある。
今回の需給推計はあらためて推計方法の問題点を浮き彫りにした。とりわけ入院医療の需要が地域医療構想におけるベッド数に対する医師数として弾き出されていることの問題性は明白であろう。今回の新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえるならば、新興感染症の拡大を前提とした需要推計がなされるべきである。過去のレセプトデータを基本に推計された地域医療構想における機能別病床数はもはや無効化しているのではないだろうか。
しかし、現実にはコロナ禍前同様の推計方法によって導き出された医療需要推計に基づき、地域医療構想も医師確保計画も推進されており、それに伴って新専門医制度の都道府県別・診療科別シーリングも進められている。パンデミックを経験した今、新興感染症を視野の外に置き続けてきた医療政策を転換し、感染症拡大に対応できる提供体制を目指すことを国に求めたい。
※1 厚生労働省ホームページ2020年9月29日閲覧 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13283.html