治りが遅いと誤診?
(50歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
患者は初診で来院。医師は患者の両足に鱗屑と一部小水泡、浸潤した紅斑を認めたので、足白癬を疑いKOH(水酸化カリウム)法を実施した。多数の真菌を認めたため、両足白癬・爪白癬と診断した。医師は患者にかぶれ等の副作用を説明の上、抗真菌薬であるルリコンクリーム?等を処方した。
その後、患者はピリピリ感が続くと訴えたため、医師はルリコンクリーム?による接触皮膚炎の可能性を疑い、他の抗真菌薬であるゼフナートクリーム?等に変更した。その際も患者に対してゼフナートクリーム?でも副作用があることを説明した。その後も改善は認められなかった。
患者は、最終受診から約1カ月半経過した頃に、他院で「異汗性湿疹」と診断され、当初診察していた医師の診断が誤診であったと訴え、弁護士を通してカルテ開示を要求した。医療機関がカルテを開示したところ、患者はその1カ月後に弁護士を通さずに調停を申し立てた。
医療機関は、他院で「異汗性湿疹」と診断されたのは、白癬の治療に効果があり、すでに真菌が消滅していたからであると説明。誤診はなかったと主張した。さらに、白癬を示す検査結果や、説明等もカルテ記載があるとして医療過誤を否定した。
調停は1回で、不調に終わった。
〈問題点〉
カルテには、局所から多数の真菌を認めた記録があることから、誤診ではない。また、使用したクリーム剤は適応があり、副作用の説明についてもカルテに記録が残されていることから、医療過誤を認める点はなかった。
しかし、本件のように他医(後医)が前医と異なる診断名や治療方法を採用して経過が良好となると、患者には、一方的に前医の誤診・治療過誤と詰責してくることがある。いわゆる「前医対後医」の問題であるが、後医の慎重な対応が期待されるとしても、前医も本件のように検査所見を採取するなど、診断や適応判断の正当性の根拠を示せる客観的な証拠所見を残し記録しておくことが必要である。
〈結果〉
調停において、医療機関側がその正当性を主張した。調停不調後に、患者からのクレームが一切なくなり4年6カ月経過したので、事実上の立ち消え解決とみなされた。