新型コロナ発生届を手書きでファクスするという、時代遅れの方法に憤りを感じた1人の医師のツイート投稿に対して閣僚や官僚が反応し、5月末にオンライン登録システムが稼働した。感染者等の情報を電子的に入力・管理し、医療機関や保健所、都道府県等でデータを共有することにより、国や自治体の対策に速やかに生かすことが期待されている。
しかし、多くの自治体で個人情報保護条例による審査手続きに時間がかかり、全自治体で利用が決まったのは9月中旬であった。また厚労省は、医療機関がオンラインで入力することで保健所の負担軽減を目指したが、記入事項が多いため感染者が多い都市部では広がっていない。20年前から、IT世界最先端国を目指すスローガンを掲げながら、今回のコロナ禍で、日本のデジタル化が世界に比して、遅れていて貧弱であることが露呈した。
2018年4月に保険適用されたオンライン診療についても、ほとんど普及していなかった。今回COVID-19蔓延下の院内感染防止策として、初診を含む幅広い診療行為に解禁する特例を4月に発表したが、厚労省の発表によると9月時点での「電話や情報通信機器を用いて診療を実施する医療機関」は京都府では100施設である。協会が定期総会で行ったアンケートでは、回答者(対象者88人、回答者86人、回答率98%、本紙3081号既報)の9割が初診でのオンライン診療を実施しておらず、直接問診、触診しないと診察できない、誤診につながる恐れを危惧するなどの声が挙がった。そもそも、厚労省の指針に合致している専用システムの利用と汎用システムのテレビ電話機能、電話が同様の扱いになる指針が理解できない。
菅政権はオンライン診療の初診解禁を当初から方針に掲げていた。10月9日には田村憲久厚労大臣が新型コロナ収束後も「安全性と信頼性をベースに、初診を含め原則解禁する」と言及した。しかし、個人情報や病歴の漏洩などセキュリティー等の問題もさることながら、そもそも医療は患者の全身を診るものである。安易に間口を広げれば、アンケートにもあったように誤診・遅診につながりかねない。初診のオンライン化の原則解禁には反対だ。
菅内閣がデジタル庁を新設し、デジタル化に意欲を見せている。デジタル先進国の真似事をするのかもしれないが、さまざまな情報漏洩事件が起こっているにもかかわらず国民の心配を考えずに急速に進展するかもしれない。我々が、新規のコンピューターウイルスにも気をつけて日々の診療にあたらねばならないということになる。デジタル庁がどんな仕事をするのか、今後の施策を注視したい。
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