1960年代、安保条約が締結され、冷戦下のベトナム戦争中とはいえ軍事均衡のもと、我が国は、高度経済成長下にあった。
一方、アメリカでは、ベトナム戦争、公民権運動の進展、アポロ宇宙開発で沸いていた。映画「Good by Co-
lumbus(邦題・さよならコロンバス)」で代表される眩しいばかりのアメリカが若者の間であこがれの的であった。また、この当時アポロの宇宙船の外壁が熱に強いことなどが話題となり、我が国でも焦げ付かないフライパンやスキー板への撥水加工が人気となり、大量に市場に流通した。同時にいかなる火災にも対応できる有機フッ素化合物(PFAS)を含む泡消火剤が開発され、ベトナム戦争に出撃する空軍基地や戦艦の泡消火剤として導入され、我が国でも空港や港湾で泡消火剤は導入された。1960年代の眩しいアメリカを実現した便利な生活用品や軍需品、宇宙関連素材にPFOSピーフォス、PFピーフォOAアに代表される有機フッ素化合物は必須の化学製品であった。
80年代になり、化学物質による環境汚染の実態が明らかになった。この時期3M、デュポン、ダイキン、AGS(元の旭硝子)など世界のPFOSおよびPFOAのメーカーは、安定なゆえに生態系でも分解されず何千年も残留することに懸念を持ち始めた。しかし、3Mは「人体に検出される高濃度の有機フッ素化合物は天然物である」という論文をサイエンスに出すことで、つかの間の虚構の安寧を得た。
この論文の誤りが後に明らかとなり、2000年前後になるとPFOSおよびPFOAの汚染は、我が国だけでなく、世界に広がっていることが明らかになった。
本書は、有機フッ素化合物のうち、PFOSおよびPFOAに着目し、化学的性質、開発、用途、汚染の実態、健康被害の過去の事例とともに現在進行中の健康影響を報告したものである。特にPFOSおよびPFOAは、近年発がん性と発達抑制の健康影響が明らかにされつつある。京阪神には、世界の主要メーカーであるダイキンが摂津市に存在し、我々京阪神の住民の血中のPFOA濃度は、2000年初頭では世界でも有数の高さであった。国内での比較では現在も高濃度で、京都に住む我々も他人事ではない。
本書では、生活必需品から軍事用品として広く生活の中に浸透した歴史を解説。東京・大阪・沖縄の3県の事例を線で結ぶことで、PFOSおよびPFOAの現在的問題である米軍基地汚染と企業公害を明快に説明しようとしている。特に日米安保の地位協定と国の不作為を厳しく追及し、企業の欺瞞を余すことなく暴いている。
(右京・小泉昭夫)
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