厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部が「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について」(事務連絡・20年9月4日)を発出。季節性インフルエンザ流行期を念頭に10月中旬までを目途とした体制整備を都道府県知事等に依頼した。
地域の医療機関においては新型コロナウイルス感染症の収束が見通せず、秋冬の新型インフルエンザ流行が最大の不安材料となっている。事務連絡も述べるように「季節性インフルエンザとCOVID-19を臨床的に鑑別することは困難である」ためである。
2020年3月、日本医師会は感染防護具を用意できない医療機関に対し、インフルエンザの迅速診断検査をせずに治療薬を処方するよう検討を求めている。だが一方、一般社団法人日本感染症学会提言(20年8月3日)は、「臨床診断のみでインフルエンザとして治療を行う場合、COVID-19を見逃してしまうおそれ」があるため、「原則としてCOVID-19の流行がみられる場合には、インフルエンザが強く疑われる場合を除いて可及的に両方の検査を行うことを推奨」している。
以上の事態を踏まえ本通知は、実際に季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症が同時流行する危険性に備え、都道府県のイニシアチブで発熱患者等の相談または診療・検査可能な医療機関の指定をはじめとした新たな体制構築を求めている。
新たに示された新型コロナ対応の体制
感染拡大から今日までに地域で構築されてきた診療・検査体制は、保健所等に設置された帰国者・接触者相談センターと疑い患者の診療検査を担う帰国者・接触者外来を中心としてきた。加えて京都府でも4月29日から「京都府・医師会検査センター」(国の言うところの地域外来・検査センターの一形態)を設置しPCR検査に対応、6月には府内の医療機関と府による集合契約が交わされ唾液を検体とするPCR検査を行っている。
通知は現体制のままでの季節性インフルエンザ流行対応の限界を超えるべく、「都道府県は、発熱患者等が、帰国者・接触者相談センターを介することなく、かかりつけ医等の地域で身近な医療機関等を相談・受診し、必要に応じて検査を受けられる体制」を求める。
〈相談体制の整備〉
発熱等の症状を生じた患者が、かかりつけ医等の地域の身近な医療機関にまずは電話等で相談。相談を受けた医療機関は自院も含め診療可能な医療機関を紹介する。以上の相談体制を整備した医療機関を指定し、速やかに増やす。
構造的に動線確保が困難である等で診療・検査実施が難しい医療機関も地域において患者の最初の連絡先となる相談を適切かつ十分に対応できるようにする。
〈診療・検査医療機関(仮称)の指定〉
既存の帰国者・接触者外来等も含め、発熱者等の診療または検査を行う医療機関を新たに「診療・検査医療機関(仮称)」として指定し、速やかに増やす。「診療・検査医療機関(仮称)」は検査(検体採取)を地域外来・検査センターに委託できる。
ただし、相談から診療・検査までの一連の対応を一つの医療機関で実施可能な体制が望ましい。
〈帰国者・接触者相談センターは受診・相談センター(仮称)へ変更〉
以上の体制整備により、発熱患者等は事前に帰国者・接触者相談センターに相談せず、かかりつけ医等の身近な医療機関に直接相談・受診することになるため、帰国者・接触者相談センターは帰国者・接触者外来を案内する従前の役割を解消。住民が相談する医療機関に困った場合の相談先として「受診・相談センター(仮称)」として体制を維持・確保する。
体制整備に課題も多く
以上が通知の示した新たな体制整備の概要である。都道府県は医師会、病院団体等と連携し、10月中旬に向け新たな体制整備を求められることになる。
いくつかの懸念事項がある。
一つは一般開業医が「診療・検査医療機関(仮称)」の役割を担い得るか、という問題である。言うまでもなく、インフルエンザウイルス抗原定性は鼻腔咽頭拭い液採取を検体とする。そのため、これまで以上に感染リスクが高まることになる。これに対し、厚生労働省は9月15日に「令和2年度インフルエンザ流行期における発熱外来診療体制確保支援補助金(インフルエンザ流行期に備えた発熱患者の外来診療・検査体制確保事業)の交付について」(厚生労働省発健0915第8号)を都道府県宛てに発出。
都道府県から「診療・検査医療機関(仮称)」の指定を受けて、発熱患者等の診療を行うことを周知した場合は、1日に約26万円を上限として補助金が交付される。「診療・検査医療機関(仮称)」に必要な個人防護具は、国から配布する予定とされ、同時に市場購入した検査キットの費用について補助を行うとされる。
一方、相談体制については「受診・相談センター(仮称)」1カ所あたり3医療機関までを対象に、発熱患者等の土日祝日や夜間の電話相談業務を行う「発熱患者の電話相談体制整備事業」についても最大100万円まで補助金が交付される。
これらの措置を受け、一般医療機関は発熱患者の診療・検査に臨むかどうかを問われることとなる。これら通知は、協会ホームページ等で周知を行う予定だ。
二つめは情報公開である。通知は都道府県が地域の医療機関に対し「診療・検査医療機関」や「検査センター」の情報を共有しておくこと、20年10 月以降の発熱患者等の医療機関の相談および受診方法を自治体のホームページや機関紙等を用いて広く住民に周知することを求めている。住民への周知にあたっては「診療・検査医療機関(仮称)」も公開の対象なることは当然であろう。通知は「公表する場合は」との書きぶりで「公表しないこと」も選択肢であるかのように書いている。しかし発熱した場合の受診方法を明確に示しておくことは住民の不安を軽減し、安心につながることからリスクコミュニケーション上、当然である。
これまでどこで受診できるか、検査を受けられるかは、一貫して非公開とされてきた。今回の新たな体制整備にあたり都道府県が公表に踏み切るかどうかは、協会が〈第4次提言〉(20年8月17日)で指摘したように、「未曽有のパンデミックの渦中にあって、府民の誰しもが感染症拡大予防に努め、なおかつ生きるための日常生活を人間らしく生きるため」に「常に行政が正しい情報を公開し、対話する」というリスクコミュニケーション策を確立しうるかどうかが前提となるのではないか。
「公的発熱外来」設置も有効な対策
協会はこれまで一貫して保健所を責任主体に「公的発熱外来」を設置するよう提言している。それに対し今回の通知は一般医療機関において最大限の対応を求めるものとなっている。もちろん相談体制を整備した医療機関となり、発熱患者の相談窓口として力を発揮すること、診療・検査医療機関を担い得る医療機関には、十分な感染防御策と財政保障を行った上で活躍することは否定すべきことではなく、財政措置も打ち出されたことは評価できるだろう。だが行政が地区の医師と調整・相談を積み重ねながら、公的発熱外来を相談から検査までを一連のものとして実施できる機能を共存して整備することは、引き続き有効な対策となり得るのではないか。
協会は会員の意見を伺いながら、取り急ぎ本通知に対応する府・京都市への意見を取りまとめる作業を進めたい。
「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について」(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部)より