約20年前に導入された電子カルテは厚生労働省によると2017年度段階で、一般診療所での普及率が約40%、400床以上の病院で約85%、200~399床の病院で約65%、200床未満の病院で約37%となっており、意外と普及が進んでいないようにも感じられる(厚労省「電子カルテシステム等の普及状況の推移」より)。しかし、国が電子カルテの普及を推進していること、新規診療所開設にあたっては電子カルテ導入が大半を占めるものと思われ、普及は確実に進むだろう。
電子カルテ普及に伴い、使用時の患者間違いなどが、日本医療機能評価機構の医療事故防止事業部から報告されている。1例目は小児科病棟の夜間入院時のもので、AとBが同時に入院したが、医師は電子カルテの患者氏名を確認せず、Aの注射処方をBの画面で入力した。病棟からAの処方がないと連絡があり、医師は入力内容が登録されていなかったと思い、Aの画面で処方した。薬剤師は続けて2人の患者に同じ処方を指示されたことが気になり確認。間違いが判明した。2例目は手術室で、患者CのRBCを輸血部にオーダーする際、電子カルテは1件前の手術患者Dの画面だった。医師は患者氏名を確認せずそのままオーダー。輸血部より患者Cに対する異形のRBCが手術室へ払い出された。また同じ原因で、他の患者データの眼内レンズを使い手術。9日後に判明し、緊急で再手術した例。1年2カ月にわたり効果のない抗がん剤を投与し続けた例。両側人工膝関節置換術直後に不要な関節内注射を行った例などが報告されている。1例目などは、不必要な薬剤が2歳児の量で0歳児に投与されてから間違いに気づいている。薬剤によっては重大な医療事故に繋がりかねないケースである。
実際我々は外来診療で、他の患者の処方が紛れ込み死に至ったケースを経験している。日本医療機能評価機構が報告しているケースは病院の場合だが、診療所でも同様の電子カルテ使用時の患者間違いが発生している。電子カルテは紙カルテに比べ、データの統合による効率化など、多くの利点があるが、スピーディーに作業を行えることが基本的な確認を失念する傾向を生んでいるのではないかと考える。
基本的な確認を怠った結果、重大な事故を招くことは、医療事故の典型的なケースである。患者の取り違い事故から医療安全の機運が高まったことは記憶に新しい。医療のIT化が進んでも、最後は人がしっかり確認することを忘れてはならない。
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