私のすすめる「写仏」体験  PDF

 「写仏」というのをご存知だろうか。古い友人に誘われたことで初めて知ったのだが、文字通り仏画を写すことで、「行」の一種だそうだ。インターネットで検索すると体験を募集している寺がいくつも出てくる。一昨年、東福寺の塔頭、毘沙門堂勝林寺にネット上で事前予約をして、初心者向け(志納料1500円)を体験してきた。
 十数人収容の部屋は土曜日とあって満席で、ほぼ若い女性で占められていた。ちょっとしたブームらしい。着順に係の人が丁寧に説明をしてくれる。清めのお香を手に揉み込んでから、選択した仏の白描図の上に薄い和紙を乗せ、筆ペンで写し取っていくだけ。単純だが奥が深い。線のつながりを考えながら筆圧を加減していくのだが、一筆で複雑な衣の線が出せたときは何とも気持ちがいい。
 描き始めてしばらくしてから、遅れて参加した組にだけ発した係の人の一言に、部屋中から声にならないざわめきが起こった。「顔の部分は難しいので台座から描いていくことを、お勧めしています」。確かに顔の部分は繊細で難しく、震える筆先をコントロールしようと余計に神経を消耗する。順序は大事だ……「早く言ってよ」。
 約90分で写し終え、抹茶と菓子をふるまわれて終了。静かな部屋で専心する心地よい時間であった。中級ならば2時間以上かかるらしいが、首や腰の痛みを考えればこれが限界であろう。ついでに言えば、若くない我々には老眼鏡は必携だ。
 友人は、数年前から海外に移住。京都にいる間は観光地に目もくれなかったが、帰ってくるたび貪るように神社仏閣を訪れているらしい。コロナ禍が終息した暁には、「そうだ、京都に行こう」を住んでいる者にこそすすめたい。
(事務局・浜松 章)

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