私のペット どうだいケンタ!中井 一郎(相楽)  PDF

 どうだいケンタ、天国の様子は? 私はまだこの世でうごめいているよ。最近はコロナ・コロナと大変なんだよ。思い返せば、君との出会いはあるブリーダーの犬舎。4匹兄弟で他3匹はすでに飼い主を見つけ、残る君だけが小屋の中にいたね。抱っこしてぬくもりを感じていたが、床に落っことしてしまい君はしばらくうずくまったままだった。これはまずいと思い、その場で飼うこととなったんだ。本名は「都の剛丸号」とあり、知る人ぞ知る名犬「竜虎号」の孫であった。由緒正しい家柄の出だったんだな~お前は!
 小さい時は家の中でもリードに繋いでいたが、手と牙で結び目を上手にほどくのには驚いたよ。成犬になってからは基本的に夜間のみ家の中、自由にドアを開け家の中を動き廻っていた。食事前のマテは完璧、無駄吠えも全くしなかった。偉かったね、お前は! 君は散歩大好き犬。時には野生っぽく、雪景色の野原を駆け回り、遠くを見つめる姿は狼のように凛として格好良かったよ。
 少し歳を取ってからのお前はより穏やかでやさしくなったように思えた。何も云わずそっと寄り添うように座っていることが多かったね。いつもの夜は足元で寝ていたが、私が疲れきって早く眠った日は、頭側に寄ってきて座り、時折頬を舐めてくれた。あれは私が大丈夫なのか確かめていたのかい。
 次第に眉毛や髭も白くなり、階段も登れなくなった。ある暑い夏から君は体調を崩した。フィラリアかと思い獣医さんに診てもらったけれど、僧房弁閉鎖不全と言われた。それから約2年の闘病生活で次第に薬も増えていった。ある日帰宅すると鼻先を私の運動靴に突っ込んで息絶えていた。たまたま、誰もいない日に。そして、私の帰りを待っていてくれたのかな? まだ温かかった。もう少し早く帰っていれば、見送ってあげられたのかもしれない。
 ある時から右目に何か黒い影が見えるようになり(実は飛蚊症)、今は北白川に眠る君が見守ってくれているのだと思うことにした。私も高齢者と呼ばれる歳となったので、少しスローに生きていこうかな? なあケンタ!!

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