昨年11月頃に中国武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に世界に広がりパンデミックとなった。東京都や大阪府など7都府県では4月7日から、4月16日からは全国に緊急事態宣言が発令された。
今では、医師も患者もマスクで顔を隠す異様な診療風景が当たり前になってしまった。いつもならゆっくりと聞く患者さんの訴えも手短に聞く。待合室で患者さん同士の接触時間を短くするなどの工夫をしている。必然的に投薬だけになる慢性疾患の患者さんも多くなり、閑散とした診療所となっている。
中国から帰化されたOさんから電話があったのが二月初めである。
「二日前から熱があって、身体がだるいのです」
「いつもの風邪じゃないのですか」
「母の体調が悪くて帰省していたのです。飛行機の便が少なく、やっと中国から戻ってきたところなのです。コロナが心配で、心配で」
「そうですよね。保健所に相談されたのですか」
「湖北省からの帰国者でないとPCR検査はできないと断られました。故郷の浙江省は湖北省の隣で70キロしか離れていませんのに」
あらためて保健所に電話でお願いした。しかし、PCR検査の対象は発熱37・5℃以上が4日間以上か武漢のある湖北省からの帰国者に限られていると断られてしまった。
よく風邪に罹られるOさんなので、コロナの可能性は少ないとは思いながらも、この時期にコロナの蔓延している地域を往復されている。自宅から2週間は出かけないようにしてもらった。2週間が過ぎても特に症状の悪化もなくほっとした次第である。
発熱の患者さんには、あらかじめ電話連絡をするように伝えているのだが、直接に来院される患者さんもある。久しぶりにSさんが来院された。
「お陰様で心臓の手術が終わって、先日、外来でもう大丈夫だと言われました」
「それはよかったですね」
「なのですが、三日前から熱があるのです。一昨日は38℃、昨日は37・5℃でした。手術を受けた病院ではコロナが出て外来が休診になっています。その頃に、その病院の外来を受診していたので、私もコロナでないかと心配で」
どきっとする瞬間である。どうして受付で発熱があると言ってくれなかったのだろうか。
「受付で発熱のことを言って下さいね」
「でも、今朝、熱はありませんでした。保健所に電話をすると、かかりつけ医を受診するように指示されたのです」
院内感染で休診している病院を受診した後に発熱があるという。とにかくコロナを否定しなければならないと判断した。
電話で保健所に連絡すると、診療所からの依頼ならアレンジしますとの返事である。患者宅に直接に電話連絡するというので自宅待機してもらった。結果が出るまでに丸二日掛かった。結果が陰性でよかったが、もし陽性であったならと考えるとぞっとする。
当地区でも発熱で受診された患者さんのPCR検査が陽性となり、先生が濃厚接触者となったため休診された診療所がある。最前線におられる病院の先生はもちろんだが、開業医にとっても気の抜けない日々が続くと思われる。
新型インフルエンザの時には私も発熱外来に出務したものである。やっと京都府医師会では京都市内にドライブスルー型の検査センターを開設したが、各医療圏域でも検査センターの開設が必要であると思う。日本のPCR検査実施率は人口1000人当たり1・8人と少なく、OECD加盟36カ国中35位であり、イタリアの検査率の6・1%、アメリカの検査率の11・5%、韓国の検査率の15・5%でしかない。
ワクチン完成までには時間が掛かりそうである。発熱患者の鑑別や感染拡大防止のためには、とりあえず保健所が独占するPCR検査の枠組みを変更し、手軽に利用できるPCR検査の仕組み作りが必要である。そのために開業医も力を発揮する時だと思っている。
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