鈍考急考8 原 昌平 (ジャーナリスト)  PDF

スローでアナログでネポな後進国

 新型コロナの感染者や死者の数は、日本ではどういうわけか少なめで済んでいるけれど、その対策を通じて、この国の情けない現実がいくつも浮き彫りになった。
 第1は「遅さ」である。
 政府・与党の右往左往を経て、1人一律10万円の特別定額給付金を盛り込んだ第1次補正予算が成立したのは、4月30日だった。
 筆者は5月4日の時点で、オンラインのほうが早いだろうと思って電子申請した。
 5月25日になって電子申請の窓口からメールが届いた。たぶん給付決定のお知らせだろうなと思って開いたら、こんな文面だった。
 〈電子申請データを申請先の自治体にて受領しました〉
 自治体へ届くまでに3週間もかかるなんて、カメ運輸かナメクジ便にデータの配送を委託したのだろうか。
 しかもオンライン申請分は、住民基本台帳との照合や通帳の写真の確認などを自治体職員らが手作業でやっていて、かえって時間がかかるという。いまだに筆者の口座には入金されていない。
 欧米諸国や韓国が生活支援の給付を迅速に進めたのに比べ、何たるスローモーさ。
 つまり、2つめの残念な現実として、デジタル後進国であることがはっきりした。
 かつてパソコンを使えない人物をIT担当大臣にして世界から笑われた実績もある。
 マイナンバーもろくに役に立っていない。もともと国民にとって役立つことを主目的に仕組みを設計したわけではないのだろう。巨額の費用は大手電機メーカーなどを潤しただけなのか。
 テレワークの拡大でハンコ文化に見直しの動きはあるものの、官民問わず、紙の書類を重視する傾向が根強くある。従来のやり方を変えたがらない人たち、保身優先の守旧派が、社会の上層にも中間にも大勢いるのだろう。
 そして照合、点検、調整、決裁といった作業に膨大な人々が労力を費やしている。
 遅いといえば、「アベノマスク」も、筆者宅にはまだ届かない。すでに不織布マスクは店頭に出回っている。
 サイズも品質も評判の悪い布製マスクに投じた国費は配送費を含めて260億円。しかも発注先には正体不明の会社が交じっていた。
 事業者向けの持続化給付金への疑問も出てきた。経産省から実体の定かでない一般社団法人へ769億円で委託され、大半が電通へ再委託。さらに電通の関連会社やパソナなどへ委託されていた。
 旅行や外食のキャンペーン事業も最大3095億円を1業者に委託予定だという。
 これらから浮かぶ3つめの現実は、縁故主義(ネポティズム、クローニズム)。
 安倍首相、麻生財務相をはじめ、国会議員や地方議員の相当数が世襲のうえ、モリカケ、桜を見る会などで「お友達優遇」が問われてきた。
 感染症による大災害の緊急対策まで利権の機会なのか。
 縁故優先、法律より人の支配というのは、資本主義より前、封建社会の特徴である。
 露呈した様々な病理。コロナ以上に深刻な病状からの回復に必要なのは、頭の手術だろうか、全身療法だろうか。

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