感染症に対する教育の必要性 新型コロナパンデミックから考える  PDF

政策部会部員 小泉 昭夫

 新型コロナ感染症が猛威を振るっている。5月17日現在、世界では感染者数は471万人(うち回復者は173万人)となり、死亡者は31万人を上回った。我が国では感染者が1万6340人(うち回復者は1万1415人)、死亡者は756人となっている。
 こうした中、医療が崩壊しているといわれている米国のNYの状況や、我が国の東京の状況が、毎日生々しく報道されている。医療崩壊の瀬戸際の中で、世界の医師は専門領域を超えて眼科医も皮膚科医も整形外科医、外科医も、みんなが基本的に同じ医療行為である新型コロナ感染症のプライマリケア、古典的なうつ伏せ体位による呼吸管理、ECMO管理を行っている。
 我が国の現代医学教育の歴史を紐解けば、戦後の米国医学の導入にある。その後、1970年から1980年に、専門医制度を念頭に置いたハーバード大学による New Pathway が我が国でも導入された。その結果、一気に授業時間の短縮が行われ、医学部の教育は、専門医教育の準備教育と割り切りが起こった。自学自習が尊重され、実習時間が大幅に削減された。
 今回の、新型コロナ感染症のパンデミックで、専門医制度は平時の医療制度であり、パンデミックには役に立たないことが痛いほどよくわかった。新型コロナ感染症の治療に、世界中の医師が参加している現状から、感染症学の分子医学の基礎および実習、感染症疫学の座学、公衆衛生の座学と実習、実地の臨床現場での感染防御の実習等は、すべての医師が共通して身につけるべき素養と考える。すなわち、学部教育の中で徹底して教育し、卒後も機会あるごとに継続する必要があろう。
 こうした実習や訓練を疑問視する声もあろうとは思うが、自身が感染症に対してのリスク管理を適切に行えるためには、座学や試験ではなく、経験によるリスクの「相場観」の形成が不可欠である。その相場観は、らせん状に個人の経験として深化する。RNAウイルスを実習で扱った経験や、滅菌操作の経験、患者を診ることの統合でしか身につかない。またその相場観に基づいてしか人は適切な行動はとれない。こうした観点から、卒前・卒後教育の中で、パンデミック型感染症に対するプライマリケアの教育の実施が必要となろう。
 Global Pathwayに基づく医学卒前・卒後教育の再構築の時代だ。

ページの先頭へ