医師が選んだ医事紛争事例 118  PDF

他科当直医の見逃し
左小指基節骨骨折

(30歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、転倒して頭部および両下肢打撲により本件の医療機関に救急受診した。アルコール性肝障害で本件医療機関の内科に通院していた既往があり、また別の医療機関でうつ病と診断された既往もあった。救急当直の脳神経外科医師が、左膝部挫創に6針縫合を行った。
 頭部CTでは異常所見が認められず、両膝・両手レントゲン検査でも骨折は認めなかった。その後、左膝部抜糸時には、患者が左小指を気にしている様子が窺えたため、整形外科受診を一応勧めたが、患者はなぜか受診しなかった。
 しかし、患者はその後、左小指が曲がってきたと訴えて、同院の整形外科を紹介受診した。左小指基節骨骨折と診断された。
 患者側は、救急当直の脳神経外科医師が骨折はないと断言したにもかかわらず、実際には左小指基節骨骨折であったことから、誤診を主張して治療費等の返還等、賠償請求をしてきた。
 医療機関側としては、初診時は脳神経外科医師とともに、放射線科医師もレントゲン検査の所見を読影したが、骨折を診断できていなかった。ただし、すでに骨折部位は変形固定していた。結果的に誤診であったことは認めるが、医療過誤であるか否かは、判断がつかなかった。なお、整形外科の治療費請求は保留しているとのことだった。
 紛争発生から解決まで約2カ月間要した。
〈問題点〉
 初診の時点でのレントゲン写真では、脳神経外科医には左小指基節骨骨折を診断するのは困難な画像所見との印象がある。しかし、当直医には骨折線の隙間が狭かったり骨折部のずれや変形が微妙な場合は、「骨折はない」とは言えず、「骨折線が見えてこない」だけの状況もあるので、痛みや変形が増加してきた場合は、必ず整形外科医に受診するよう、適正に療養指導する必要があった。また、当直での処置に際しては、必ず翌日に専門医を受診するよう強く勧めておく必要がある。
 「骨折はない」との断言では、確定診断と解され、専門医受診を妨げることにもなる。本件では、骨折は事実であった。したがって見落としとして過誤と判断するのが妥当と解された。
〈結果〉
 医療機関側としては、明らかな過誤とは考え難かったが、早期解決に向けて解決金を提示したところ示談が成立した。

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