小児科外来診療料が6歳未満へ拡大
小児の医療と開業医を良くする? 悪くする?
小児科 東道 伸二郎
小児科領域では、小児科外来診療料の年齢が3歳未満より6歳未満に変更された。本診療料は、96年4月に創設され2019年度まで変わらず、小児科・小児外科を標榜している医療機関だけが選択できる点数であるので、以下に簡単に説明する。
①小児の外来・在宅が対象②初・再診料や投薬や検査など、ほとんどの費用がこの点数に含まれるため別に算定できない、まるめの点数③選択することができるのは小児診療を行う小規模医療機関(200床未満の病院および診療所)④月に1回でなく、1日ごとに算定⑤まるめにするか、出来高で算定するかは、医療機関単位で選択し、個別の患者で選択することはできない。成人の包括診療とは異なる⑥院外処方か院内処方かで算定の日ごとに点数の額が変わる―。
一見合理的に見える改定であるが、年齢が引き上げられたことにより患者側、医療機関側ともに大きなマイナスの影響がある。小児科外来診療料を算定した医療機関の収益は同じ診療内容で大きく減少することが予想される。収入の減少を考えた診療内容になると患者の不利益になる。
乳幼児医療の質向上に寄与
改定を考える上で、改定前の小児科外来診療料がなぜ生まれ、どう育ったかを見る必要がある。詳しくは当時の小児科医会で活躍されておられた諸氏にお聞きする必要があるが、私見を述べる。
まだ子だくさんの時代で薬価差益が医療収入の多くを占めていたため、乳幼児医療に対する評価は極めて低かった。親の育児の相談や泣き叫ぶ子どもの診察は邪魔物扱いで、露骨に親を説教するスタッフが内科系診療所には多かった。一方、乳幼児の診療を行う医療がもっと充実する必要があると主張する小児科医会、小児科学会や小児保健学会と、乳幼児に焦点を当てた医療保険制度が必要と考えていた厚生省が一致して、乳児医療の改善と、乳児医療を担当する恵まれない小児科医の待遇を良くするための診療報酬の仕組みが整った。発案は大阪小児科医会の重鎮の医師で、「他科の医師と同等とはいかずとも、普通の小児科医が子ども2人を6年制大学に通わせるに足る保険点数にすべき」との主張が通ったと開業当時の小児科主任教授から聞かされた。
現在に至る極端な少子化の中では小児医療は小児の人口比率ではなく、一定の地理的範囲も加味した中で医療を組み立てる必要がある。すべての地域に小児科医を配置できるわけでなく、地域を担う医師が負担なく診療できる枠組みが乳児医療に必要となる。小児科医でなくとも小児科勤務医や開業医との病診、診診連携を取りながら少子化した地域で乳幼児の診療が続けられるようなシステムは有効で、小児科外来診療料算定で乳幼児診療にも対応できるスタッフの配置が可能になってきた。難しそうな乳幼児例の診察は、症状や所見を連携の専門医に相談することで治療方針を決定できることもあり、総合医による乳幼児外来の診療報酬としても適切なもので、過疎化が始まった地域の乳幼児医療が何とか整えられるようになってきた。
小児科外来診療料算定開始から24年経過したが、個人的には乳幼児医療の質を高めた良い制度と評価している。
乳児のみの算定を認めよ
今回の改定では処方箋発行をする、しないにかかわらず、3~5歳児に前年度同様の診療では大きな収入減か赤字となる例が多い。結果として多くの診療所では検査を控え、診察のみで診断し治療する例が極端に増加すると予想する。
小児医療から見ると3~5歳児の特徴は、感染症のみならず急性白血病を中心とした小児がん、喘息重症例、特発性若年性関節リュウマチ、その他の膠原病、ネフローゼ等の腎疾患、代謝異常症(マススクリーニング以外の疾患)や低身長等、検査が必要な例が増えてくる。小児期死亡数でも年齢とともに幼児の難病が上位となってくる。難病や重症例の多くは診療所で見つかるが、血液や尿検査を行い、鑑別診断を行って高度医療機関を紹介する。検査上重症でない、難病の可能性がないことを説明して、診療所で治療を続ける場合も多い。検査をせずに治療を続ける危険性は医師にとっても患児や保護者にとっても不利益なことである。検査なしの幼児の医療では親の不安が募り、紹介状を持たずに救急受診をする例が増加し、結果として勤務医の負担が増加することになる。他方、小児科外来診療料を諦めた医療機関では、17点ルールを無視した保険者と小児医療に無理解な査定に音を上げて、小児科外来診療料算定に戻り減収に甘んじる。
今回の改定は小児科かかりつけ診療料の拡大に伴う医療費増加に備えた改定とは考えるが、小児医療を守るうえでは本診療料を算定しない医療機関においてはこれまで通り0~2歳のみの小児科外来診療料の算定を許可すべきと思われる。
小児科を希望する医学生は多いが、小児科医になることを諦めた医師の理由は収入の少なさと当直でのトラブルであった。少子化時代に小児科医の減少に歯止めをかけたのは、小児科外来診療料と若干の小児科医の待遇の改善であることを最後に指摘しておく。
妊婦加算は廃止、診療情報提供料 (Ⅲ) が新設に
産婦人科山下 元
前回の2018年改定で、「妊婦加算」が設定されたのはいまだ記憶に新しいところだ。正常妊婦の診察は本来自費だが、異常を認めると保険給付の対象となる。異常妊娠や合併症を持つ妊婦診療への配慮が評価されたのだった。点数表第1章の基本診療料での新設点数なので、大きなニュースとなった。しかし妊婦加算には乳幼児加算と違い、公費等での補填システムがなかった。診察料に加算が加わったため、窓口では自己負担分が増加することになる。領収証をもらって明細表を見た妊婦は、たちまち「妊婦税か」と不満の声をあげ、それをマスコミがとりあげた。時の参議院選挙も絡んで19年1月に、年度途中にもかかわらず凍結となり算定不可となってしまった。今般の改定ではこの宙ぶらりんの妊婦加算に、どう決着がつけられるのか注目されていた。いったん決めたことは引かないはずの厚労省なのに、妊婦加算は「解凍」でなく「廃止」だった。妊婦合併症への配慮を評価しない姿勢では困るのか、診療情報提供料(Ⅲ)が新設されている。
この診療情報提供料(Ⅲ)150点は、かかりつけ産婦人科医と別の専門医が、1人の合併症妊婦を継続的に頻回に情報交換しながら診療していくことを評価しているようだが、妊婦の同意も要求される。情報提供の回数制限をゆるめただけの新点数で、ハイリスクの妊婦にのみ適応できそうだ。適応の妊婦はそう多くない。厚労省の言い訳の点数かもしれない。
超音波検査は06年に530点に切り下げられた。14年間530点のままだったが、改定を控えての昨秋、大幅切り下げの噂が出回った。年々、超音波検査の請求が増加して医療財政を圧迫しているというので真実味があった。結果、新点数に変化はなかったが、根も葉もない噂ではなかった気がしている。超音波検査に記載要領が新設されたのだ。「摘要欄に超音波断層撮影法(胸腹部)を行った領域の該当項目を記載すること」。
これは次期改定での切り下げの伏線に思える。2年かけてレセプトで超音波検査請求の実態を収集し、点数を洗い直すのではないだろうか。