死んで貯まるか 8 ただいま、リハビリ奮戦中 垣田 さち子(西陣) セラピストは白馬の王子!?  PDF

 毎朝9時にPTのFさんが車椅子を押して病室まで迎えにきてくれた。8時半には朝食、歯磨き、服薬、排泄等全て済ませ、首には汗とり用の気合いタオルをかけて待ち受ける。食事、身の回りの用意、どれも自分でできるわけでなく、3人介助が基本だった。PTのリードでベッドから車椅子に移乗し押してもらって長い廊下をスイスイとリハ室へ。朝一番の爽やかな空気の中、看護師さん達に見送られ「行ってきまーす」と大声で挨拶。元気一杯やる気満々の1日の始まりだ。
 和医大のリハビリは、PT室、OT室、ST室、リハ科看護師長室、リハ科診察室がずらりと並び専門職が忙しく行き交っていた。主に下肢はPT、評価、ADL向上動作等、上肢を中心にOTが担当してくれた。そしてSTのMさんにもお世話になった。
 最後に国家資格として認められ、まだまだ現場では課題の多い言語聴覚士だが、和医大では存在感を持って仕事をしていた。PTからもOTからも頼りにされることが第一だろう。“摂食・嚥下障害”“高次脳機能障害”等々これからのリハ課題も山積している。どう分担してどう協力していくのか。
 私のリハビリだが、模範生になろうと心がけた。複視がひどいので片目に眼帯を貼付け、不随意運動が激しいので四肢を弾性包帯でぐるぐる巻きにして、歩行練習を行う。まるでミイラだ。重たい身体を支えてもらいつつ足を運んでもらう。しかし、当の私は足がないという感覚だった。2~3日で長下肢装具ができあがった。とにかく「立っている」という感覚を忘れないようにすること。自分で歩いているわけではないが、目の前の風景は歩いているときのように流れていく。これが大事なんだと改めて認識する。運動麻痺はないのに感覚麻痺で歩けない。少し進むと不整脈が出るので、心電図モニターを睨みながら休み休み平行棒内をまわった。1時間もするとどっと疲れる。不整脈と血圧の変動で、ドクターストップとなり、ST室へ。
 STは椅子にかけて動きが少ない分、楽かと思うがそうではない。発音の難しい語の読み上げは簡単ではない。正確に丁寧に大声で、集中して繰り返し練習した。頭が疲れる。いったん部屋に戻り、ベッド上で全介助の昼食を済ませて少し休憩し、午後からはOT室へ。最初に言われた「右手を今の4倍に強化しないと」の正しさを、後々何度も感謝とともに思い出し今も励みにしている。とにかく患者のやる気を引き出すのが大変上手い。上肢リハビリでは牽引運動でボクシングの真似事をする。私の最多は600回。「サンドバッグちょうだい」と言ったら、にゅっと顔出して「どうぞ」。歯を食いしばってがんばっている時に思わず大笑い。夕方ふらふらになって部屋へ戻る。
 セラピストの有能さには患者になって改めて敬服した。技術的な高さもだが、リハビリに集中させるため、常に患者に声をかける。「上手くできましたね」「いいですよ」「その調子です」。患者のリハビリを「こなす」のではなく、患者に寄り添い一緒になって機能回復を目指してくれていることを肌で感じる。惚れ惚れするような男前ばかりでみんな優しい。私たちは幸せだ。70数年前までのこの国では、国家予算の半分以上が軍事費だった。働き盛りの男達は人を殺すことを教えられた。今は、じいさん、ばあさんを大事に抱えて一緒に歩いてくれる。有り難いことだ。

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