続 知っておきたい 医院のための雇用管理4 社会保険労務士 桂 好志郎  PDF

パワーハラスメント対策の法制化
増え続ける相談件数 職場におけるハラスメント

 ◆「いじめ・嫌がらせ」が7年連続トップ どの職場にも潜在化している(下図参照)
 ◆たとえば、こんな行為(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告より)(下表参照)
 4~6は、何が「業務の適正な範囲」を超えるかは業種や企業文化の影響を受け、具体的な判断も行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによって左右される部分があるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にすることが望ましいです。
 ◆6月1日から労働施策総合推進法に基づき、パワハラ防止措置が義務となります。(2022年3月まで中小事業主は努力義務)
 職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものです。
 ①優越的な関係を背景とした
 ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
 ③就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)
 ※適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たりません。
 ◆与える影響は深刻です
 職場は、人生の中で多くの時間を過ごす場所、さまざまな人間関係を取り結ぶ場です。そのような場所でパワーハラスメントを受けると
 ①人格や尊厳を傷つけられたり、仕事への意欲や自信をなくす
 ②心の健康の悪化、場合によっては休職や退職に追い込まれたりする
 ③受ける人だけの問題だけでなく、職場全体に悪影響を及ぼす可能性がある
 ◆「思わずやっているこんなこと」はありませんか?
 ①モンスター院長 感情にまかせ、大声で怒鳴る
 ②公開叱責 皆の前で人格を否定するような叱責をする
 ③「無視」の命令 特定の職員を無視するよう院長が指示する
 ④説教電話 所定労働時間外や休日に携帯電話で仕事の失敗を長時間責める
 ⑤過重なノルマ あえて困難な仕事を与え、業績が上がらないことを執拗に責める
 ⑥私的強制動員 仕事とは無関係なカラオケ等に参加するよう強要する
 ⑦聞き流し パワハラの相談には親身に真剣に耳を傾けること。それは医院の責任です
 ◆雇用管理上の措置の具体的内容(現行のセクハラ防止の措置義務の内容を踏まえて今後検討)
 ①事業主によるパワハラ防止の院内方針の明確化と周知・啓発
 ②苦情などに対する相談体制の整備
 ③被害を受けた職員へのケアや再発防止  等
 ◆使用者として
 いったん事案が発生してしまうと、その解決に時間と労力を要します。発生しないように、予防対策を講じることが重要です。
 職員から申告され、ただちに調査した結果、パワハラの有無が判断されないとして何の措置も取られないケースもあります。しかし、使用者として大切なことは、仮に調査によりパワハラの有無が確定できないときでも、職員の訴えを真摯に受け止め、職場環境を整えるように努力することです。
 業務の適正な範囲内か否か、一歩手前の「適切な言動かどうか」の視点で考え、言動を見つめ直し、働きやすい職場環境を整えるようにしたいものです。

「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
民事上の個別労働紛争
相談内容別の件数 2018年度
いじめ・嫌がらせ 82,797件(25.6%)
その他 118,605件(36.6%)
自己都合退職 41,258件(12.8%)
退職勧奨 21,125件(6.5%)
解雇 32,614件(10.1%)
労働条件の引下げ 27,082件(8.4%)

主な相談内容別の件数推移(10年間)

いじめ・嫌がらせ 82,797件(+14.9%)
自己都合退職 41,258件(+5.9%)
解雇 32,614件(-2.0%)
労働条件の引下げ 27,082件(+4.8%)
退職勧奨 21,125件(+1.9%)

21年度  22年度  24年度  26年度 28年度 30年度
※( )内は対前年度比

1 身体的な攻撃 暴行・傷害
2 精神的な攻撃 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
3 人間関係からの切り離し 隔離・仲間外し・無視
4 過大な要求 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5 過小な要求 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない
6 個の侵害 私的なことに過度に立ち入る

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