鈍考急考 4 みんなで決めるのがいい? 原 昌平 (ジャーナリスト)  PDF

 大阪弁護士会と大阪のソーシャルワーカー(SW)専門職3団体のコラボ企画で、昨秋から「福祉行政を考える連続学習会」を催している。
 5回目の1月27日に講師を務めた五石敬路・大阪市立大准教授の話で興味深かったのは、オランダや北欧の社会支援サービスの進め方だ。
 どんな人を支援対象にするか、明確な基準はない。ある人にどんな支援や給付を行うかは、幅広い課題を扱うSWが単独で決めるという。
 専門職として権限を持ち、責任を負う。SWへの社会的評価や信頼度の違いだけでなく、社会一般として物事の決め方の風土が違うようだ。
 日本なら、制度に細かな基準や規則を設けたうえに、たいてい組織で決める。関係者を集めて会議を開くか、上司の決裁や稟議(★ルビ/りんぎ)が必要になる。
 組織的決定に費やしている労力や時間がどれほど大きいか。官僚的な組織でも民主的運営をうたう組織でも、会議がたくさんあり、ときには出席者への根回しが求められる。上司の決裁方式でも、事前に声をかけておかないとヘソを曲げられたりする。
 そもそも何のための会議なのか、人を集める必要がどこまであるのか、こんなに時間をかけるべきか――いらだつことも多いだろう。
 会議をはじめとする組織的決定が日本では当然と思われているが、功罪を見つめ直す必要があるのではないか。
 スピードが要求されるビジネスの世界では、個人が権限を持つ欧米企業に比べ、日本企業は意思決定に時間がかかりすぎると言われる。中国の企業も行動は速い。
 みんなで決める、組織で決めるというと美しく響くが、背景には、誰も責任を取りたくないという集団的無責任の風土もあるのではないか。
 形式的な議決が制度上欠かせない場合(取締役会や理事会など)、意見の違う者の論争が大切な場合(議会など)は別として、同じ方向性を持つ人々の集まりなら、組織的決定の対象をなるべく絞り込み、もっと分権して担当者に任せてはどうか。
 個人が裁量と責任を担って経験を積むほうが力量は上がる。個人差によるばらつきが心配なら、決定まで若干の保留期間を設け、異論が出たら再検討する方式でもよい。
 もちろん会議には効用もある。①情報や認識の共有②多様な意見や声を聞く③知恵を生み出す④顔を合わせることで人間関係ができる⑤自分が参加した会議の結論なら、それに従って仕事や活動をする人が多い――などだ。
 課題は、日程調整に手間取る、時間を費やす、場所の制約、意見を言わない人は言わないといった効率の悪さ。
 今はメールやSNSの利用、スカイプやZoomを用いた遠隔会議など、情報通信技術を活用すればリアルの会議を省けることも多い。
 本当に大事なのは、③の知恵を生み出す場だろう。1人で考えるより、前向きに意見交換すれば、相互作用もあって新しいアイデアが浮かぶ。
 効果的に行うには、8人以内の場をつくる、ファシリテーションや各種ワークの手法を用いる、他の人を否定しないといった工夫が必要だ。

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