シリーズ環境問題を考える 144  PDF

世界的な水不足問題をどうするか

 地球上の水の97%は海水で、淡水はわずか3%である。淡水のうち実際に使える水はわずか0・8%程度である。経済協力開発機構(OECD)によれば、世界の水需要量(2000年時点で3600?=3兆6000億トン)は、2050年には世界人口は90億人を超えるとされており、主に製造業の工業用水(プラス4000%)、発電(プラス140%)、生活用水(プラス30%)の増加で、全体で55%の増加が見込まれている。世界人口の増加や途上国の都市開発などにより、2050年には深刻な水不足に見舞われる河川流域の人口は39億人(約40%)と予想されている。
 食糧を増産するための水消費量は50年前に比べて3倍に増加している。水不足を引き起こしている原因の大部分は、米国やEU、日本などの先進国である。輸入に頼っている日本は、その生産に必要な水を間接的に消費していて、これを仮想水と呼ぶ。日本の輸入品(農産物や工業製品)のために使われている仮想水は全部で約800億トンになり、日本の水使用量(約830億トン)とほぼ同じ量の水を海外で消費していることになる。
 大雨や干ばつなど異常気象を引き起こしているとされる地球温暖化による気候変動は、水の利用可能量に大きな影響を及ぼしている。降水量は地域により差が激しくなり、世界中で氷河が縮小し続けていて流出や下流の水資源に影響を及ぼすとともに、海面水位上昇により沿岸地域の浸水、水没、海岸浸食など気候変動が水資源にさまざまな影響を与えることが懸念されている。日本は島国であるため、水紛争になじみが少ないが、世界各国では水資源の配分、水質汚濁、水の所有権、水源開発と配分の問題などで水紛争が起きている。
 水源の確保は死活問題である。そのため海水や下水などに手を加え、使えるようにする「海水淡水化」と「下水再利用」の増水技術が注目されている。海水淡水化技術は、「蒸発法」と「RO(逆浸透)法」に大別され、全世界で6000万トン/日もの真水が海水から生産されている。下水処理には日本が開発したMBR(膜分離活性汚泥法)をベースにRO膜を組み合わせた下水再利用システムがある。先進国や中国で急速に普及しており、中東や北アフリカの需要も増えている。しかし、技術への過剰な期待は禁物である。
 ワールド・ウォッチ研究所やアース・ポリシー研究所を設立した、米国の思想家・環境活動家であるレスター・ブラウン氏は、現在、世界各地で進む砂漠化による水不足に、今後どう対処すべきかについて、雑誌「世界」2019年6月号に以下のように述べている。中国、イラン、パキスタン、エジプト、アフリカ西部、米国・カリフォルニア州の砂漠化の状況、枯渇する世界の帯水層、水問題と連動する食料問題、世界の穀物生産量は2017年をピークに今後は減少していく可能性が高い。水の危機的状況はすでに目の前で刻々と進行している。水に関する国際機構を創設し、各国政府、それぞれの地域、農業従事者、企業などの組織、そして一般家庭の一人ひとりが、一刻も早く状況を理解し、取り組みを進めなくてはならない。
 地球温暖化・気候変動に連動する水問題、我々シニアは若者の代表グレタ・トゥンベリーさんに、どう答えればよいのでしょうか。
(環境対策委員・山本 昭郎)

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