京都府医師確保計画(中間案)に対するパブリックコメント  PDF

前提の問題
 私たちは国に対し、今回の都道府県医師確保計画策定の法的根拠である改正医療法・医師法(2018年)により導入された「医師偏在指標」の撤回、それを用いたあらゆる施策の中止を求めている。なぜなら国にとっては、「三位一体」と称して進められる地域医療構想・医師偏在対策・医師の働き方改革のいずれもが、必要な医療提供体制の確保ではなく、「都道府県間の1人あたり医療費の地域差縮減」に向け、病床や医師の数・在り方のコントロールすることにこそ、主眼が置かれていると考えられるからである。

中間案について評価すべき点

 以上の立場からすれば、中間案はいくつかの点で京都府の努力が伝わってくるものであり、評価すべき内容が含まれていると考える。
 一つは、医師偏在指標について「京都式」を作ったことである。府は医師偏在指標の根本的欠陥である「京都府の受療率が用いられていない」「地理的要因が反映されていない」こと、並びに国指標の「標準化医師数」が大学等医療機関の教員・大学院生の臨床従事時間を考慮していないことを問題として捉え、それらを補正する【京都式医師偏在指標】を作成した。これにより、国の画一的で現実の医師不足実態解明に役に立たない指標から、府が医師確保すべき地域を明らかにしようとする指標への改善を図ろうとした。
 二つ目には、医師確保計画策定に係る診療科別医師数調査を独自に実施したことである。この調査によって少なくとも回答のあった病院については、厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師調査では明らかにできないリアルタイムに近い二次医療圏別・診療科別医師数を把握しようとした。
 三つ目には、上記調査や独自指標で使用した医療機関へのアクセス状況を用いて、重点領域の設定とその医療を確保する計画を策定したことである。中間案は、緊急性および専門性の高い治療が必要であるとして、「脳血管疾患、心疾患およびハイリスク分娩」について、各医療圏の人口カバー率を示し、体制強化が必要な医療圏を明示した。
 四つ目には、国が求めた外来医師多数区域での開業規制策を盛り込んでいないことである。改正医師法とそれに基づく国の通知は、外来医師偏在指標によって外来医師多数区域となった場合、「都道府県は、外来医師多数区域において新規開業を希望する者に対しては、当該外来医師多数区域において不足する医療機能を担うよう求め、新規開業を希望する者が求めに応じない場合には協議の場への出席を求めるとともに、協議結果等を住民等に対して公表することとする」としており、なおかつ「外来医師多数区域における新規開業者の届出の際に求める事項」には「新規開業者の届出様式には、地域で不足する外来医療機能を担うこと(地域ごとに具体的に記載)に合意する旨の記載欄を設け、協議の場において合意の状況を確認することとする」とある。
 私たちはこれらを開業規制の始まりとみて、国に対して撤回を求めてきたが、京都府の中間案はそうした内容を盛り込んでおらず、高い見識を示したものと評価できる。

さらに求めたい点

 その上で、今後の京都府における医師確保策の推進にあたり、さらに求めたい視点を述べたい。
 第1に、そもそも二次医療圏単位で医療状況を捉え、施策を考えること自体に限界があるのではないか、ということである。私たちと府内の各地区医師会との懇談会でも、二次医療圏だからと言って複数の自治体をひとまとめにして、多数・少数と区分され、分析されること自体への違和感は度々表明されている。京都・乙訓医療圏は最低でも京都市と乙訓地域に分け、データ収集と分析・検討すべきである。さらに外来医師多数区域とされる山城南医療圏にあっても、東部2町1村は、それぞれ1人ないしは少人数で地域医療を担っている実情がある。だがそのうちのある町の実情を数字に置き換えれば、内科系診療所数の人口10万人あたり全国平均43・85に対し、73・1と高い数値となる。小児系も皮膚科系も同様に全国平均を上回る。だが実態は町内でたった一人の医師が、必要な診療科を標榜し、地域医療を支えているのである。したがって、その開業医が医療を続けられなくなれば、その町は医師のいない自治体になるのである。こうした地域はより小さな地域で捉えれば、多数存在するものと考えられよう。このことから、中間案は中丹と南丹医療圏のへき地診療所周辺地域を医師少数スポットに設定しているが、より細やかな医療状況の実態把握が必要と考える。これは府のすすめる地域包括ケアシステムにも通じる問題だが、人々が日常生活を営む範囲で、医療資源をめぐる実状を分析・検討することが必要と考える。そのために、新たに府民と医療関係諸団体が参加する場を設置し、計画策定の根拠となるデータの収集と精緻化を担う仕組も新たに必要ではないだろうか。
 第2に近年、平成の大合併や道州制構想、自治体戦略2040構想と、人口規模の小さな自治体は国から「消滅」を予言され、追い詰められた状況にある。私たちが10月に開催した「医師偏在是正を考えるフォーラム」では、小さな自治体の開業医から「人が暮らし続けられる町にならないといけない。医療以前の問題で、町そのものを続けていけるかどうかこそが大事だ」と発言があった。こうしたことから、医師確保計画は緊急に医師が必要な地域への手当を行う計画であると同時に、地域そのものの再生や「まちづくり」を目指す計画と一体的なものであってほしいと考える。
 第3に、新専門医制度における専門医研修について、京都府内では対象となる科のうち脳神経外科を除くすべてにシーリングがかけられた。府におかれてはすでに要望を出されているが、国による新専門医制度を通じた診療科別医師数抑制に対しても引き続き、「医師確保」の観点からも意見を述べていただきたい。
 京都府が今後一層、地域実態から出発した施策を展開しつつ、国の誤りに対し、毅然と反論し、提言する自治体でありつづけることを期待したい。国からの強い圧力も想定されようが、断固として、そして柔軟に、対応しつつ、地方自治体としての自主的・自律的な取組みを貫いていただきたいと考える。以上
2020年1月9日
京都府保険医協会
理事長 鈴木 卓

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