2019年12月19日 理事長 鈴木 卓
改定率決定を受けて
診療報酬の2020年度改定率について、2019年12月17日、加藤勝信厚生労働大臣と麻生太郎財務大臣が合意した。診療報酬点数表に対する評価としてはプラス0.47%に「救急病院の勤務医への働き方改革への特例的な対応」としてプラス0.08%を加え、合計でプラス0.55%の引き上げとした。財源規模は国費で約600億円増となっている。特徴的なのは今回の政府発表資料では従来から用いられてきた「本体」という表現が消え、「診療報酬」と「薬価・材料価格」という書き分けになったことと、働き方改革推進分に消費税財源を充てたことや消費税増税に伴う19年10月改定による影響を踏まえて厚労省が「全体(ネット)の改定率は算出していない」ことだ。しかし、薬価・材料価格は19年10月改定分も含めマイナス1.01%とされており、ネットでのマイナス改定であることは間違いない。
本来であれば薬価引き下げ分は診療報酬で引き上げ「療養の給付」の拡充として国民に還元すべきである。
働き方改革推進分を除く0.47%の医科:歯科:調剤の財源配分は従来通り1:1.1:0.3とされた。なお、診療報酬とは別に消費税を財源とした地域医療介護総合確保基金を増額し、働き方改革に充てるとしている。
財務省・財政制度等審議会は11月25日、「2年間で2%半ば以上のマイナス改定とする必要がある。本体についても、マイナス改定により是正していくべき」「改定率を決定する際には、医科・歯科・調剤の各科改定率だけではなく、病院と診療所との間で改定率に差を設けるなど配分に当たっての大枠を示すべき」と建議していた。
ネットではマイナスとなったが、財政審建議を跳ね返し診療報酬本体がプラスとなったのは、総理大臣、財務大臣、厚労大臣、中医協会長及び委員、京都選出国会議員、衆参厚生労働委員会委員への会員署名提出をはじめとする保険医運動の成果である。
一方、薬価・材料価格の引き下げ分を全て本体に投入させることはできなかった。財政審は16年・18年改定に対する建議の中で「薬価改定は本体の財源とはなり得ない」との考えを示してきたが、今回はそれが当然であるかの如く説明さえしなかった。そればかりか働き方改革推進分0.08%には「消費税財源を活用する」として、薬価・材料価格引き下げ財源の以外から持ってきたことをわざわざ強調している。診療側の経営努力により実勢価格が抑制されていることを踏みにじった評価は許せない。
また「救急病院の勤務医への働き方改革への特例的な対応」が別に評価されたことについても、財政審建議の通り「病院と診療所との間で改定率に差が設けられた」と見ることもできるため、今後こういった手法が常態化していかないか、注意が必要だ。
個別の改定項目に対する評価は中医協がまとめる「現時点の骨子」や「答申」を待つことになるが、個別項目の検討の中では超音波検査の適正化、人工腎臓の評価の適正化、治療装具の採型法の評価の見直し等が議論されている。中医協で適正化・見直しと言えば、引き下げの検討に等しく、保険医にとって汎用の技術評価の引き下げが検討されていることを憂慮している。
「診療報酬は健保法第63条に掲げられた『療養の給付』そのもの」であり、点数表は公的医療保険により現物給付される医療サービスの水準を担保するものだ。初・再診料など基本診療料と汎用技術の評価を適切に引き上げることを強く望む。以上
診療報酬改定について
1.診療報酬 +0.55%
※1 うち、※ 2 を除く改定分 +0.47%
各科改定率
医科 +0.53%
歯科 +0.59%
調剤 +0.16%
※2 うち、消費税財源を活用した救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応 +0.08%
2.薬価等
①薬 価 ▲0.99%
※うち、実勢価等改定 ▲0.43%
市場拡大再算定の見直し等 ▲0.01%
②材料価格 ▲0.02%
※うち、実勢価等改定 ▲0.01%
勤務医の働き方改革への対応について
診療報酬として公費 126億円程度(再掲)
地域医療介護総合確保基金として公費 143億円程度