誤診とまでは言わないが…
検査の遅れを認めた判例
(50歳代前半男性)
〈事故の概要と経過〉
この患者は、生活習慣病予防の健康診断のため、胃の読影検査を受けた。もともと自覚症状はなく、異常な診察所見もなかった。2人の医師がX線所見を確認し、胃体部全体の大湾側に大きなすう壁を認めたが、壁の硬さ、潰瘍、集中像も見られないため、「検査結果正常」と診断した。ところが、その数カ月後に胃がん(ステージⅣ)と診断され、他のA医療機関に入院し、死亡した。
患者側は、精密検査を施行して胃がんを早期に発見しておれば、生存の可能性が5年以上あがったとして、弁護士を介して賠償請求を行い、その後に訴訟を申し立てた。
医療機関側では、複数の医師が確認しており、診断の誤りはなかったとして医療過誤を否定した。
紛争発生から解決まで約3年6カ月間を要した。
〈問題点〉
胃がんを診断したA医療機関のフィルムがなかったため総合的な判断をすることには困難があったが、訴えられた医療機関のフィルムを見る限り、明らかな見落としを指摘できる所見はないと見えた。また、診察した医師は、10年以上当該医療機関に勤務しており、読影が未熟とも考え難かった。
〈結果〉
第1審では、誤診とまでは断定できないが検査実施の遅れがあると認められ、請求額の9分の1程度の賠償を認める判決が下った。双方とも控訴したが、第2審でも第1審の判決が維持された。