心臓カテーテル後に 左前腕末梢神経障害
(40歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
この患者は他院から紹介され、循環器科を標榜する医療機関を受診した。その後、冠攣縮性狭心症の疑いにより心臓カテーテル検査目的で入院となり同日検査が実施された。なお、それに先立ち合併症等の説明があった。左橈骨動脈アプローチで開始し、1回穿刺、シース挿入、冠動脈造影、冠攣縮誘発試験、シース抜去、ゴムバンド止血の行程で検査は終了した。翌日も特に異常は認められず退院となったが、5日後に患者から電話で3日前からカテーテル検査の痕とその上に痛みがあり、肩にかけて放散するとの相談があり、当日受診となった。
受診時、左前腕部内側(穿刺部より十数㎝近位部)および上腕外側から肩に拡がる疼痛が認められ軽度の発赤も確認された。体表エコーでは左前腕部に明らかな血腫・腫瘍は認められず、左橈骨動脈の血流は不良であった。Allen testの結果、左上肢末梢の血流には問題なく、虚血による疼痛は否定的であった。発赤については、湿布が原因と推測された。以上からカウザルギーの初期症状が疑われた。麻酔科より交感神経ブロック治療について説明したが、患者は頻回の受診は困難とした。そこでNSAIDs を投与したが、改善せず星状神経節ブロックを施行した。しかし、これも効果は認められなかった。診断名は「左前腕末梢神経障害の疑い、および左前腕部痛」であった。
患者側は、合併症の説明を受けて理解はしていたが、検査後の治療費の支払いを拒否した。
医療機関側は、神経を直接穿刺していないが、周辺の細かい神経に影響を及ぼした可能性があると判断した。この症状の発症については不可避的な合併症である上、インフォームド・コンセントもあり、医療過誤はないと判断した。
紛争発生から解決まで約4年5カ月間要した。
〈問題点〉
心臓カテーテルもスムーズに行われており、説明のカルテ記載も適切であった。診断・心臓カテーテルの適応・手技・説明・事後処置に過失が認められないことから、医療過誤は否定された。
〈結果〉
医療機関側が患者側に医療過誤がないことを説明したところ、患者側のクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。