期間:2019年8月19日~9月13日
対象:京都府内の病院(160病院)
回答:65通(回答率:40・6%)
協会は9月17日、厚生労働省保険局医療課と懇談し、加藤厚生労働大臣らに対する「入院料の引上げと入院時食事療養費の引上げを求める緊急要請」を提出(本紙3059号にて既報)した。要請をまとめるにあたり実施した「入院料、入院時食事療養に関するアンケート調査」結果について紹介する。なお、緊急要請をまとめた後に集約した回答も含めてまとめているので、厚労省に提出した内容と数字に相違があることをお断りする。今回のアンケート調査にご協力いただいた病院の方々にこの場をお借りして深謝申し上げたい。
調査の目的
医師の働き方改革、適正な賃金の支払いが求められる中での入院料に係る業務に要する残業等のコスト、1994年4月以降実質的な引き上げが行われていない入院時食事療養に係るコストの状況を把握する。
集計結果
1.該当する病床種別(複数回答)
回答を寄せた病院は65病院で、その病床種別の内訳は以下の通りであった(複数回答)。一般病床が57病院と最も多く、次いで21病院の療養病床であった(図1)。一般病床のみの病院は33病院あった。
2.残業代相当額を入院料不足分と捉えた場合の1日当たりの必要額
2019年7月度の病棟に勤務する医師、看護職員、看護補助者、病棟クラーク等入院料に関係するスタッフのおよその残業代相当額を尋ねたところ、回答のあった54病院の総額は、3億5917万2609円①であった。療養・精神・介護病床を有する病院を除くと、37病院で、総額1億8867万609円‘①であった。
一方、2019年7月度の入院患者延べ数は、54病院の合計が27万6855人②で、療養・精神・介護病床を有する病院を除くと、12万8853人‘②であった。
残業相当となっている業務量コストを、現在の人員配置、通常の業務量では賄えていない業務、現在の入院料では担保できていない業務と捉え、残業代相当額を入院患者延べ数で除す(①/②、‘①/‘②)と、回答のあった全病院では、1日当たり約1297円の不足、療養・精神・介護病床を有する病院を除くと、1日当たり約1464円の不足と出た(表)。
3.病院給食の形態
病院給食の形態について尋ねた。業務委託が最も多く44病院(67・7%)、次に病院直営で18病院(27・7%)であった。その他は、院外委託等であった(図2)。
(その他の内容)
・給食システム
・院外委託
・一部(調理補助)委託
4.管理栄養士・栄養士の人件費
1994年4月以降の管理栄養士および栄養士の人件費について尋ねた。上昇しているとの回答が最も多く44病院(67・7%)であった(図3)。
「上昇率」については24病院が回答。うち11病院(45・8%)が10~50%未満上昇していると回答し、9病院(37・5%)が100%以上上昇と回答した(図4)。
5.給食業務委託費
1994年4月以降の給食業務委託費について尋ねた。業務委託している44病院のうち業務委託費が上昇していると回答した病院は30病院(68・2%)あった(図5)。
「上昇率」については15病院が回答。うち5病院(33・3%)が20~30%未満上昇していると回答し、3病院(20%)が30%以上上昇と回答した(図6)。
6.委託先からの業務委託費引き上げの打診
1994年4月以降、委託先から給食業務委託費の引き上げの打診があったかどうか尋ねた。業務委託の44病院および以前業務委託であった1病院の合計45病院のうち、業務委託費引き上げの打診があり引き上げられた病院は30病院(66・7%)であった(図7)。
また打診の結果にかかわらず、業務委託費引き上げの「打診があった」病院は38病院(84・4%)あった。
7.経費削減に向けた取り組み(複数回答)
入院時食事療養に関してどのような経費削減に取り組んでいるか尋ねた。食材料費の削減・圧縮が最も多く28病院(43・1%)であり、特に取り組んでいない病院も15病院(23・1%)あった(図8)。
(その他の内容)
・光熱水費の削減
・院内調理から外部委託(給食システム)へ変更
・調理使用備品の買い控えや、安価なものへの見直し
・クックチル導入による効率化を予定
・委託先の変更
8.入院料、入院時食事療養費に関する主な要望、自由意見
・入院収入の大幅な増額を要望したい。特に療養型は社会的背景により、在宅での治療が困難な患者の受け入れをしており、人件費の上昇による収入の圧迫が著しい。
・消費税増税と診療報酬改定額との乖離を改善していただきたい。
・病院給食の収入の全てを委託業者の支払いに充当し、その上、光熱水費に、機器設備も全て病院持ちで、なおかつ管理栄養士の人件費もあり、完全に赤字です。
・高齢による嚥下困難患者に対して経費と手間がかかるが、摂食機能療法等の算定基準にあてはまらない患者が多いため、基準の緩い加算が別途必要。小規模病院では言語聴覚士の専属雇用は難しい。
・人件費、材料費の上昇に対する診療報酬の対応が全く不充分であり、早急に引き上げを希望する。
・年々食材料費の価格は上昇しているのに、入院時食事療養費が引き上げられないという状況は厳しい。消費税の引き上げも迫っており患者へのサービス低下につながりかねないことから入院時食事療養費の引き上げをお願いしたい。
・消費税率の引き上げや食材費の上昇が全く考慮されていない。食療養費制度に疑問を感じている。患者負担増のない引き上げを要望したい。
・食事療養費について、25年も改定されていないということで当院でも大変厳しい状況です。
・業務委託業者の委託料は、人件費の高騰を理由に年々増加しているが、病院では価格転嫁ができず、非常に厳しい状況である。また必要に応じて補助食品や食形態の対応も負担となってきている。
・入院時食事療養の食事の特別食に、ミキサー食、嚥下食、食物アレルギー食等を含めてほしい。大変手間をかけて食事を作っているのに一般食扱いであるので検討していただきたいです。
9.まとめ
(入院料に関して)
業務効率化の若干の余地は否定できないものの、多くの病院で入院料に係る業務において残業(相当)が発生している現状が明らかとなった。人員配置の実態から、残業(相当)によりかろうじて確保されているのが現状である。残業代相当額は、入院料で賄われるべきであり、1日当たり約130点、療養・精神・介護病床を持つ病院を除けば、1日当たり約146点に相当する。「働き方改革」実現のためにもその相当分の入院料の底上げが必要である。
(入院時食事療養に関して)
給食業務は、病院直営よりも業務委託が多く、さらに院外委託等も始まっていることが分かった。入院時食事療養費は、消費税率引き上げに伴う引き上げを除けば、実質的な引き上げが1994年4月以降行われておらず、2019年10月の消費税率引き上げに至っては、引き上げが全く行われなかった。
この間、管理栄養士・栄養士の人件費、給食業務委託費は上昇しており、業務委託をしている病院のほとんどが業務委託費の引き上げが打診され、多くの場合、実際に引き上げられている。食材料費の削減や圧縮などの経費削減に取り組んではいるが、経費削減は給食の質の低下につながりやすいため、経費削減に取り組んでいない病院も一定数あった。
自由意見では、入院時食事療養費の引き上げを求める切実な訴えが多く書かれていた。嚥下食等、治療の多様化による特別食の充実も求められている。食材料費や光熱水費相当とされる標準負担額ではなく、人件費や食事管理業務、業務委託費を担保するため、入院時食事療養費の早急な引き上げが必要である。
図1 病棟種別
図2 給食の形態
図3 管理栄養士・栄養士の人件費(94年4月以降)
図4 人件費の上昇率
表 残業代相当額を入院料不足分と捉えた場合の 1 日当たりの必要額
全体 1,297.3円/日
療養・精神・介護を有しない病院 1,464.2円/日
図5 給食業務委託費(94年4月以降)
図6 業務委託費の上昇率
図7 業務委託費引き上げ打診(94年4月以降)
図8 食事療養部門の経費削減方法