医師が選んだ医事紛争事例 101  PDF

こんなことでも医療機関の責任に
誠意ある説明が解決のポイント

(70歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 院内にて当該患者と患者Aが、転倒しているのを発見した。患者Aは軽介助で立ち上がりが可能だったが、当該患者は自力立位不能で、胸部レントゲンと膝レントゲン撮影の結果、第5肋骨骨折と左膝蓋骨骨折(疑い)が確認された。当該患者から事情を聴くと、この患者は病室の洗面所で歯磨きをしてベッドに戻ろうとしていた。一方、患者Aは自身のオーバーテーブルの上の食器を取り、洗面所に行こうとしていたとのこと。その際、患者Aがふらつきながら当該患者に倒れかけて、2人とも転倒に至ったとのことだった。なお、当該患者は手術の必要はなく保存的治療となった。
 当該患者側の主張は以下の通り。
 ①医療機関側の説明は受けたが謝罪がない②加害患者A側からの謝罪がない。医療機関側は加害者と連絡を取っているのか③事故後の入院費用等の支払いを拒否する④医療機関側の患者Aに対する管理責任を問う。
 医療機関側は、①に関して、事故後の医師からの説明だけで十分と考えたが、事務がもっと早く対応すべきだったと反省点があることは認めた。②に関して、患者Aの唯一の家族である娘も他の医療機関に精神疾患で入院中であり、個人情報保護の観点から、当該患者に知らせ難い状況にあった。③に関して、医療過誤の有無が明白になっていない時点で医療費免除は応じられない。調査の後に判断したい。④に関して、「動ける範囲で動いてよい」との判断があったが、ベッドサイドでの歩行補助までの義務については判断できなかった。
 紛争発生から解決まで約1カ月間要した。
〈問題点〉
 転倒アセスメントスコアを確認すると更新がされていなかった。その間に、患者Aは3回にわたり、床にうずくまったり転倒していた。看護師は医師にその旨を報告していたが、医師は動ける範囲で動いてよいという指示を変更していなかった。また、患者Aは状態がよくなるにつれて、ナースステーションからより遠い病室に移動しているが、3回の転倒等のインシデントを考慮して、病室をナースステーションのより近いところへ移動して、センサーマット等を設置していれば、今回の事故は予防できた可能性もあった。しかしながら、今回の加害者はあくまで患者Aであり、賠償金の支払い能力の有無は別として、当該患者側は、医療機関にではなく患者A側に賠償請求をすべきであろう。
〈結果〉
 医療機関側は患者Aに対する管理責任は認めず、誠意をもって患者側に医療現場の限界を説明。当該患者側の理解を得た。

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