続・記者の視点 94  PDF

新聞はいつまでもつか
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

 かつて社会的な情報伝達の主力であり、ジャーナリズムの中心だった新聞が、産業として危うくなりつつある。
 日本新聞協会が集計した毎年1月時点の日刊一般紙の合計部数は、2001年に4755万部、08年でも4656万部あったが、その後は減り方が大きく、18年は3682万部に落ち込んだ。10年間で20・9%も減った。
 この間、単身化の進行で世帯数は増えた。世帯あたりの一般紙の発行部数を計算すると、01年に0・99、08年に0・89だったのが、18年は0・65までダウンした。
 発行部数には企業や官庁の購読を含むので、一般市民では、新聞を取らない人のほうが多くなったかもしれない。
 最近の状況は、いっそう危機的になっている。
 日本ABC協会(新聞、雑誌、広告会社などが会員)の調査によると、2019年5月の全国紙の部数は、読売802万(前年同月比41万=4・9%減)、朝日551万(同38万=6・6%減)、毎日239万(同39万=14・3%減)、日経229万(同12万=5・2%減)、産経137万(同9万=6・2%減)。
 軒並み、1年で5%前後またはそれ以上の大幅なマイナスで、減り方が加速している。
 ブロック紙の中日は219万(3・6%減)、地方紙も京都42万(2・4%減)。神戸48万(2・5%減)、山陽35万(5・2%減)、中国58万(4・1%減)といった状況で、減少傾向は共通する。
 なぜ新聞を取る人が減ったのか。一つは可処分所得の実質的な低下、通信費の増加などで家計に余裕のない世帯が増えたこと。もう一つはネットの影響で、特にスマホが普及してからは、ニュースや社会的な情報を容易に得られるようになった。新聞の愛読者は高齢者が中心になった。
 受信料を強制徴収するNHK、CM収入で成り立つ民放テレビと違い、新聞は部数が減れば、広告収入も減る。
 新聞各社は、子どもや若者が新聞に接する機会を増やすなどの活動に力を入れているが、経営学的に見ると、新聞という商品自体が衰退期に入ったと考えざるをえない。
 紙に印刷してトラックで運び、販売店から配達する。そういうビジネスモデルは、もはや時代遅れではないか。
 新聞の発行は人件費、編集制作システム、印刷工場、販売店網の維持といった固定経費が大きく、発行部数が損益分岐点を割り込んだら、経営危機につながりやすい。
 すでに米国では中小の新聞社がずいぶん消えたという。
 日本の新聞各社が今後10年もつのか、心配である。
 もちろん、社会的なできごとや問題を伝える必要性、世の中を良くするジャーナリズムの価値は大きい。文字を用いるメディアも情報のやりとりには効率的である。
 企業の存在目的を紙の新聞の発行から、社会的な情報の伝達・発掘に転換するしかないが、自社のホームページで広告収入を得る、記事閲覧を有料化するといったネット上のビジネスモデルは、あまりうまくいっていない。
 紙面のあり方とは別に、企業・産業として生き残れるか、重大な時期に直面している。

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