シリーズ 環境問題を考える 142  PDF

絶滅危惧種の日本ライチョウ保護を

 日本ライチョウ生息の最北端である、火打山のふもとの町、妙高市であった「ライチョウ会議」の講演会と現地調査会に参加してきました。
 火打山ライチョウ集団の個体群特性は日本最北端、日本最小の集団で、最も低い標高に生息しています。2007年から行われた調査ではマイクロサテライト遺伝子解析を用いていて、火打山集団は氷河期以来分化した南アルプス、北アルプスの両集団とは別の、ハプロタイプとして存在します。07年から足輪による調査が開始され、09年から数年間は、非常に珍しいメスのほうが多い一夫二妻がみられましたたが、その後減少しました。ライチョウは生まれた年の秋から翌年の春にかけて、生まれた場所から移動します。火打山でのメスの個体数の増加は、他の地域(北アルプス)からの移入があったと推測されます。火打山の集団は生む卵の数が多いという独自の進化をとげています。そして最近ではハイマツ以外の営巣がみられますが、それは降雪量の減少や温暖化でハイマツの背丈が高くなったためと推測されます。
 ライチョウの餌はコケモモ、ガンコウランの実や葉っぱですが、火打山の生息域でイネ科の植物が侵入し植生が変わって、子育てに適した環境が失われています。そのため、人の手によりイネ科の植物の除去を行う必要があります。また、毎年観察されるライチョウの生息域が標高の高いところに移っていて、雷鳥平では見られなくなっています。温暖化の影響だと考えられます。
 乗鞍の集団に比べて、火打山の集団は、独立から1歳までの生存率が悪く、とくにメスの生存率が悪いため、どうやって個体数を守るかが重要な課題です。そのためには生育環境の改善を行う必要があり、特にイネ科の植物を取り除くことが重要です。またニホンジカやイノシシの対策、キツネ、テン等の捕食者対策が必要です。現在、ケージによる人の保護により生存率を高める方法が考えられています。人の手を加えて、高山の国立公園を積極的に守っていくことがもっとも適切な対応です。
 日本のライチョウ研究者たちは「ライチョウをトキやコウノトリのようにはしたくない」という強い思いを持ち、日本アルプスの生息域での保護と動物園などで行う人工飼育を車の両輪として研究を重ねてきました。自然の中で生息するライチョウは、餌とする高山植物の毒を分解するため、鳥類最大の盲腸を持ち、その中にいる腸内細菌で植物の毒を分解します。そして、生まれた雛たちは母親の免疫の消える生後3日から14日の間に食糞により母親の細菌を自分の腸の中に入れます。母親は盲腸糞と直腸糞の2種類の糞をして腸内細菌のいる盲腸糞だけを子どもに食べさせるのです。
 スバールバルライチョウを日本に導入して11年、ケージでの育成方法は確立されてきましたが、餌の開発の必要があります。あとはそこで育てたライチョウたちに、どうやって山の過酷な環境で生きていくすべを身につけさせるかが課題です。家族で放鳥するというのも一つの手だてとして考えられます。絶滅したといわれてきた白山で発見されたメスは、少なくとも6年間は卵を産み続けました。山の環境への戻し方がこれからの5年の課題になるのです。そのためには腸内細菌と栄養の問題が大事です。そして近いうちに中央アルプスや白山でもライチョウの家族がみられる日が来ることを心から願っています。
(京都府歯科保険医協会 副理事長 平田 高士)

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